spiral
「今、二人がここにいないのには理由があるの。それが、マナの母親が関係しててね」
うんと黙って頷く。ものすごく言葉を選んでいるみたい。
「二人は別の病院に行ってる。それはこの近くの病院で、どうしてもそっちに向かわなきゃいけなくなったの。マナの病状は差ほどじゃなかったし」
ドキドキしてきた。落ち着けと、胸に拳をあてる。すると反対の手に凌平さんの手が重なった。
「俺もついてるから」
そういって、重ねた手に力を込めた。
「いい?話すわよ。あんたの母親が病院に運ばれたって連絡があったの。ナオトのお父さんにね」
「ママが運ばれた?」
ドクンドクンと心臓が強く打ちつける。どうしても最悪を想定してしまう。
「あ、死んでないわよ。言っとくけど」
その心配も、心さんがバッサリと切り落としてくれる。おかげで、すこし安心した。
「妊娠してるって。流産しかかったみたい」
「妊娠……って、赤ちゃん?」
「そうよ。それ以外の何の妊娠があるっていうのよ。変なこと言うわね」
確かめたくもなる。ママに赤ちゃんが?……って。でも、不安なことがひとつある。
「それって、誰の赤ちゃんなのかな」
そうだ。お父さんとママってそういう関係にあったのか知らないし。
でも、夫婦だし。そういう気分になったりもあった……り、したよね?
「けんちゃんって人。そうだ、あの男の人」
お父さんじゃない可能性もある。
え、いや、でも……。ママがそういうことする人だって確率が、どれくらいある?
パパが散々浮気してても、ママはそんなことしなかったみたいだったし。
「あ、でも、あたしにあんなことした時、後でねとか言ってたし」
頭の中の独り事のはずが、口から洩れてた。なにかしたのかな程度は思った、二人の表情がおかしかったから。
「え、二人とも。どうかしたの?ポカンとして」
口から洩れてるなんて思ってなかった。だから聞いたのに、二人同時にため息をついてから、
「ダメだ。本人、気づいてないし」
「ホントね」
やれやれって顔をした。
「え?なに?」
聞き返すと、「本当に気づいてないの?」と聞き返される。
「何のこと?」
もう一度聞くと、今度は二人で大笑い。
「あははは。マナって面白いよね」
「ホント。天然って、こういうのが天然っていうのよ」
「えええええ?」
あたしのことで笑ってるってわかったけど、よくわからないままだ。
「教えて。なんで笑われてるの?」
そう聞いても、しばらく二人で笑い続けた。