spiral

「今、二人がここにいないのには理由があるの。それが、マナの母親が関係しててね」

うんと黙って頷く。ものすごく言葉を選んでいるみたい。

「二人は別の病院に行ってる。それはこの近くの病院で、どうしてもそっちに向かわなきゃいけなくなったの。マナの病状は差ほどじゃなかったし」

ドキドキしてきた。落ち着けと、胸に拳をあてる。すると反対の手に凌平さんの手が重なった。

「俺もついてるから」

そういって、重ねた手に力を込めた。

「いい?話すわよ。あんたの母親が病院に運ばれたって連絡があったの。ナオトのお父さんにね」

「ママが運ばれた?」

ドクンドクンと心臓が強く打ちつける。どうしても最悪を想定してしまう。

「あ、死んでないわよ。言っとくけど」

その心配も、心さんがバッサリと切り落としてくれる。おかげで、すこし安心した。

「妊娠してるって。流産しかかったみたい」

「妊娠……って、赤ちゃん?」

「そうよ。それ以外の何の妊娠があるっていうのよ。変なこと言うわね」

確かめたくもなる。ママに赤ちゃんが?……って。でも、不安なことがひとつある。

「それって、誰の赤ちゃんなのかな」

そうだ。お父さんとママってそういう関係にあったのか知らないし。

でも、夫婦だし。そういう気分になったりもあった……り、したよね?

「けんちゃんって人。そうだ、あの男の人」

お父さんじゃない可能性もある。

え、いや、でも……。ママがそういうことする人だって確率が、どれくらいある?

パパが散々浮気してても、ママはそんなことしなかったみたいだったし。

「あ、でも、あたしにあんなことした時、後でねとか言ってたし」

頭の中の独り事のはずが、口から洩れてた。なにかしたのかな程度は思った、二人の表情がおかしかったから。

「え、二人とも。どうかしたの?ポカンとして」

口から洩れてるなんて思ってなかった。だから聞いたのに、二人同時にため息をついてから、

「ダメだ。本人、気づいてないし」

「ホントね」

やれやれって顔をした。

「え?なに?」

聞き返すと、「本当に気づいてないの?」と聞き返される。

「何のこと?」

もう一度聞くと、今度は二人で大笑い。

「あははは。マナって面白いよね」

「ホント。天然って、こういうのが天然っていうのよ」

「えええええ?」

あたしのことで笑ってるってわかったけど、よくわからないままだ。

「教えて。なんで笑われてるの?」

そう聞いても、しばらく二人で笑い続けた。

< 176 / 221 >

この作品をシェア

pagetop