spiral
今だって、心臓がいつ壊れちゃうかわからないくらいの状態。これ以上ドキドキしないように、余計なことを考えないので精いっぱい。
「ね、マナ」
「は、はい」
あ、声がひっくり返っちゃった。
「……ぷっ。本当に天然って大変だよね」
「え?天然……って」
言われたことがわからない。
「ほら。大変そう」
そう続けて、クスクスと数回笑う声がした。それから少しして、凌平さんがぽつりぽつり話し出した。
「なんかさ、同じ命なのに不公平だよね」
なんだか寂しそうな声。いつもは、からかうような声ばかり。こっちの方が緊張しちゃうな、こんなに元気ないと。
「おふくろは、自分で命を絶った。あの男は、地位という名に守られた」
お父さんのことかな、あの男って。
「たとえ後になって認めるようなそぶりを見せたって、本人以外が認めなきゃさ。なんていうか、結局おふくろの存在はものすごく軽くみられてたんだろうって、今でも思ってる」
切ない。凌平さんは、とてもお母さんのことを好きだったんだね。
「一人でさ、俺が何をどうしてもずっと笑ってこらえてるようなおふくろだった。多分だけど、あの人と付き合ってる時もそうだったのかもなって思う」
「笑ってこらえる?」
思わず聞けば、「そう、なんかマナに似てるよ」という。
「あたしに?凌平さんのお母さんが?」と聞き返せば、「ってことは俺、マザコンだ」と笑う。
「そういやあ、自分の親に似た人と恋に落ちるって聞いたことあったな。……あはは。今、気づいた。俺」
そういいながら、ゆっくりと体を離して、あたしの顔を見る。
「顔はやっぱり違うんだよね。不思議だな、内面だけ似てる人を見つけるって」
そういうのをなんていうんだっけ。前に凌平さんが何か言ってた気がした。
「んと、あれ……えっと」
喉まで出かかってるのに出てこない。んー、気持ちが悪いな。なんだっけ、ほら。
「あ、そうそう。呼ぶんだ」
独り言。また声に出してるなんて思ってない。気づいてない。あまりにも大きな声だったから、さすがにあたしも気づいた。
「……え。あれ?」
自分がしたことに気づいたあたしの顔を見て、凌平さんが声を殺して笑う。
「今のってあたしですよね」
確かめたくないけど、つい聞いちゃう。
「やっと気づいたし」
あたしが気づいたって分かったと思ったら、今度は大きな声で笑い出した。