spiral
「はあ……っ」
思わずため息が漏れてしまう。それでもお腹の赤ちゃんが死なずに済むことを喜びたいのに、どこか複雑な気分。
「離婚はしない。それが条件。それともうひとつ」
「もうひとつ?」
「あたしだけを見てって。マナのことばかり話されて、ウンザリだって。自分は母親じゃなく女だから。それを約束してくれるなら産むって了解したの」
「……ママ」
それがママの本当の願いなんだね。ママは母親でいることは望まない。女であることだけを望んだ。
じゃあたしが出来ることは何だろう。ママが望むことで、ママが喜んでくれそうなこと。
「マナ?」
心さんが、あたしの顔を覗き込む。
「またよからぬこと考えてるでしょ」と言いながら。
「やだな。そんなに顔に出やすい?」
多分わかってるってことだね、この反応は。横目でみれば「バカじゃない」と呆れ顔。
「だって、それくらいしか浮かばないんだもの」
窓に目を向ければ、オレンジの空が遠くに見える。あのコスモスみたいな色。
「あたし、ママには笑っててほしいもん」
ママの心の中にも、凌平さんの心に咲くような一輪の花があれがきっと笑える。
「お父さんと話がしたいな。戻ってくることないのかな」
ママの望みを叶えるということ。
それはつまり、お父さんとそう簡単には会うことがなくなるんだという未来が待ってるということ。
「あたし、頑張る。アキのお姉ちゃんやってたから、子守りなんか慣れてるもん」
「もしもその子供が、マナがいうように誰かの子でも?それでも育てるの?」
心さんが珍しく心配げに聞いてきた。優しいな。
「うん。だって、命は命だもん。ね、凌平さん。不公平なことしちゃ、イケナイよね」
さっき凌平さんが言ってた言葉が浮かぶ。どんな命も平等じゃなきゃね。
「……バカ」
凌平さんが横からあたしの頭に腕を絡め、自分へと寄せた。
「うん。バカなんだ、きっと」
あたしがした決意を、あの二人はなんて思うかな。責められてもいい。憐れまれてもいい。
「楽しみだな、産まれてくるの」
凌平さんに体を寄せながら、あたしはいつまでもオレンジの色を眺めていた。