spiral

「俺、ここに死にに来たんだ」

体中が心臓になって、大きく脈打ったよう。バクンと大きく体が反応する。

「なんで」

それ以外、気の利いた言葉が出てこない。

「最初はそんなつもりなかった。なんとなく、お前と出会った場所に行きたくなった。ふらっとな」

「う、うん」

死にに来たというお兄ちゃん。近づいても平気?大丈夫?

でも行きたい気持ちと反比例して、足が急に重たくなった。足がこれ以上進まない。

「シンにここでマナに出会ったんだとか話しながら、ただ街の景色が変わってくのをみてた。それだけだったはずなのに」

ゴクンと唾を飲んだ時、お兄ちゃんが続けた。

「あ、死のう。もう辛いや。そう思った。なんでかスイッチ入ったんだ。そっか、ここで死にたかったのかって気づいた」

死のスイッチ。その言葉に顔を歪めた。

同じように死のうとしたあたし。そのスイッチを入れたのは、ママだった。

「マナ」

「……なに?お兄ちゃん」

静かな時間が流れていく。それが怖い。凌平さん、そばにいてって思ってた。

「俺、お前が好きだ」

何を言われたんだろうと思った。緊張しすぎて、聞き間違えたのかなって。

「オヤジから妹がいるって聞いて。でも訳あって一緒に住めないっていわれて。どっちにしても俺、向こうの学校にいたし。いつか会えるかなって、楽しみにしてた」

「うん」

「オヤジからいろいろお前のこと聞いて、胸が苦しくなった。可哀想とかじゃなく、俺が……、俺なら護ってやれるのにって。……きっとその時、もう、好きになってたんだ」

(会ってもいないのに?どうして?)

そう聞きたいのに、聞いていいのかわからなかった。

「そのうちさ、オヤジがマナと一緒に撮ったっていう写メ見せてきて。そしたら、すっげー会いたくなった」

「顔、みて?」

震える声でそう聞くと、「あぁ、一目惚れだな」ってくっくっくってまた笑う。

「やっぱ俺が護るって決めた、その時に。お前のこと想う時は、いつも男の気持ちでいた」

「お兄ちゃん……」

「お前の自殺を止めた時、腕の中のお前のぬくもり感じて、掴まえたって思ったんだ。コイツは俺のだってさ」

空を見上げ、「空もきれいだな」って白い息を吐く。

あたしも空を見上げたら、涙が流れてきた。

本当に空がきれいで、お兄ちゃんの想いが痛くて、涙が流れてしまった。

「でも、護れなかった。俺」

「え?」

意外な言葉だった。あたしはお兄ちゃんに護られていたつもりでいたから。

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