spiral
こんなにも近くにお兄ちゃんを感じる。
頬に触れているお兄ちゃんの手が、かすかに震えてる。
「俺さ、思ってた。あの女に向けてるお前の愛情。それみてて、待ち続けててもしゃあないんじゃないかって。だから、諦めようって思った。いい兄貴しようって」
ドキドキで、体が満たされていく。
「シンが与えてくれる愛情。それだけ受け入れてたら幸せになれるかもなんて」
お兄ちゃんは真っ直ぐあたしを見たまま、かすかに笑った。
「でもそれは、マナもそうだったらななんて願いにもなってって。俺が与える愛情だけ受け入れてくれたら、絶対に幸せにするのにとかさ」
お兄ちゃんの顔は、お兄ちゃんの顔じゃなく、男の人の顔つきになっていく。
どうしよう、ドキドキが止まらなくて、心臓が壊れちゃう。
「葛藤したんだ、俺なりに。月命日、一緒に行っただろ。あの時、やっぱ辛くてお前の顔見れなくなってた。前日は、限界に来てて、シンを抱いた。お前のこと想いながら」
「え……。あたし、を」
シンはどんな気持ちでいたんだろうか。
あの時、お兄ちゃんがシンにお前にしか頼めないと、何かを囁いた。その後、とても嬉しそうだったシン。
「軽蔑してもいい。俺はそういう卑怯な奴なんだって。でも、もうどうしようもなくなってた」
「それで、いなかったの?前の日。あたしのこと好きなのに、凌平さんと二人にしたの?」
意味不明だ。好きな気持ちと、他の男の人と置いていける気持ち。同居してられるの?二つの気持ちは。
「どうにかなってほしかった、正直なとこ。でも迎えに来たら、なにもなくて。ガッカリしたのと、安心したのと。……グチャグチャだった。変な罪悪感があって、余計にお前を見られなくなった」
あの時のお兄ちゃんの様子のおかしさ。その答えがそれ。
「好き、なんだ。どうしようもないくらい、お前のこと」
すこし躊躇いがちの告白に、頭の中の整理が追いつかない。
どうしていいのかわからないまま、お兄ちゃんの顔が近づく。もう、呼吸が触れるほどに。
「一度でいい。許可してくれよ。お前に触れる許可を」
苦しげな囁きなのに、まるで悲鳴にすら感じられた。こんなにも気持ちをぶつけてくれる。
「許可、するよ」
まだ混乱は続いたまま。けど、苦しむお兄ちゃんから痛みを取ってあげたい。
「同情?」
触れる際、お兄ちゃんが聞く。
「……きっと、違う。お兄ちゃんを護りたいんだと思う」