spiral
これなのかな、凌平さん。あたしに言ってた母性というもの。
お兄ちゃんを包み込めたらって、自然と思ってたの。
「して……、ナオ、ト」
躊躇いながら、お兄ちゃんを名前で呼ぶ。名前で呼んだだけなのに、こんなに独占している錯覚を起こす。
「マナ。今だけ……俺のこと、考えてて」
「……うん」
悲しいキス。違う形で出会えたなら、こんな風にはならなかったかもしれない。
お兄ちゃんのそばにいる心地よさは、あたしを安心させる。凌平さんのそれとは違う安心感。
お兄ちゃんと簡単に呼べた。触れると気持ちよかった。お兄ちゃんの汗の匂いが、あたしを一人にさせなかった。
「好きだよ、ナオト」
目尻から涙が頬を伝う。
「俺もお前だけだ」
その想いは真っすぐで、真っすぐすぎて誰かをどこかで悲しませてた。
時にお兄ちゃんが自分を傷つけては、深い暗闇にいたんだろう。
お兄ちゃんの唇はすっかり冷えてた。
キスを数回繰り返すとそのうち悲しさは薄れ、くすぐったさの方が増してきた。
「不思議だな。なんかこうしてても、いつもと変わらないみたいで。……嫌んなるな」
「きっと元々仲がよかったから仕方がないよ」
似たようなことを感じていたのが嬉しい。
「くっくっく。……あはは」
「ははっ。おっかしいね」
笑いあっては、キスをして。楽しくて温かいキスへと変わっていく。
「やっぱりお前が妹でよかった」
最後のキスの後、お兄ちゃんは頭に手を置きながらそう言った。
「あたしもだよ」
あたしがそういうと、お兄ちゃんは顔を真顔に戻して顔を近づけた。
「なぁに?」
耳を傾けると、ゆっくりと囁いてくる。
「シンには悪いけど、やっぱりずっとお前が一番でもいいよな」って。
「そ、それはやっぱり」
シンに悪い。それにあたしには今、心の中にいる人がいるから。
「……冗談だよ」
冗談だといったのに、顔つきは寂しげなまま。
「でも、ずっと好きだから。お前のこと。惚れた女として、妹として」
そういい、お兄ちゃんが立ち上がった。
「帰るか、そろそろ。俺、腹減った」
あの時と同じように、そう呟く。思わず顔が緩んだ。
「今晩は、水炊きにするよ。たくさん買ってあるから、みんなで食べようよ」
あたしも立とうとした。だけど、冷えきったのとか、いろんな緊張があったからか。
「ん?立てなくなったか?」
「あ、はは。なんでかな。力、入らないや」
そういうと、「しゃあねえな」といい、背中を見せた。