spiral
「したのかー、ふぅん」
少し先を歩き出し、車のドアを開けてくれる。
「マナ。悪いけど、ナオトは助手席に座らせるからね」
俯くあたしの顔を覗き込みながら、凌平さんにそう言われた。
「すっごく怒ってるからね、俺」
と、付けくわえてから、運転席のドアを開ける。
「怖いわね、男の嫉妬って」
シンが滑り込むように横に腰かけた。
「でも」
シンに囁きで聞く。
「知ってたんだよね、お兄ちゃんの……その……」
そう聞くと、「いいの。あたし、待てるから」という。
「でも相手、あたしなのに」
そう続けると、「所詮シスコンだもの。妬く気持ちにもならないわよ」と微笑んだ。
人を好きになるって、こんな風に人を強くするのかな。シンに憧れるのは、こういうところもあったりする。
「さて、帰ろうか」
「うん」
ゆっくりと動き出す車。窓から見上げると、さっきまでいた場所が空の闇の先にある。
(お兄ちゃんがいなくならないでよかった)
そう心から感じた時、「雪だよ、マナ」という凌平さんの声と同時に雪が見えた。
「きれいね」
「……うん」
今までとはすこし違う気持ちで見る雪。
空から降ってきているはずなのに、逆に吸い込まれそう。
「よかった」と小声で呟く。
悲しい雪にならなかったことを、本当に感謝した。
家の中に入って、まっ先に気づいたのはお兄ちゃん。
「あー……、俺、なにやってんだよ」
そういいながら、狭い玄関でしゃがみ込んだ。
「なぁに、どうかしたの?」
シンがお兄ちゃんの肩を叩き、声をかけると申し訳なさそうにあたしを見る。
「俺、何も用意してない」
そういって、立ち上がった。
「え?用意?」
お兄ちゃんが恨めしそうに見ている視線の先。それを辿ると、白い箱がある。
「あ、そっか。玄関が一番寒いからって、ここに置いたんだった」
自分でも忘れてた。シンと話すまで浮かれてた、自分の誕生日。
「お前の誕生日に何やってんだよ、俺」
申し訳なさそうにそういってから、「ごめんな」ってあたしを抱きしめる。
「いいんだってば。自分でケーキ買ったりして浮かれてたから、罰が与えられたんだよ」
あたしがそういえば、「そんな罰があってたまるかよ」って体を離し、ケーキの箱と一緒に家に入っていく。
「……そういえば、そうだった。俺もマナから電話もらうまでは、贈り物の準備してて」
「え、そうなんですか」
「あ」
「あーぁ、内緒にしてたんでしょうに。残念だったわね」
凌平さんの肩を叩き、シンが先に入って行った。