spiral
凌平さんの顔を見ると、本当にガッカリしてた。
「あ、あの。楽しみにしてるから、贈り物」
何か言わなきゃと思ってそれだけ言うと、ニコニコしはじめ「そう?うん、待っててね」なんていいつつ、二人の後を追った。
「……凌平さんも、案外子供なのかも」
今の反応で、そんな感じがした。みつけた、いいなと思うところ。可愛い部分。
自分の態度で相手の喜怒哀楽が変わるのは当たり前のこと。だけど、どうせなら笑ってくれる方がいいもの。
「さてと、水炊き美味しく作らなきゃ」
三人の後を追って、あたしも部屋に入って行った。
ささやかながら、みんなに祝ってもらう。案の定でシンがつっこんできた。
「こんなに祝ってもらおうだなんて、本当に欲が深いわね」って。
いつもよりも奮発した材料。ちゃんと四人分。祝ってもらう気満々っていうあたりがつっこまれた。
「だって、お鍋はみんなでつついた方が」
白菜を箸先でいじりながら、言い訳のように返す。
「まあ、今日は許すけどね」
「うー……。なんで許してもらわなきゃいけないんだろう。腑に落ちないなぁ」
すこしいじけてそう口にしたら、「冗談よ」ってシンが微笑んで頬を指先でつつく。
「でも、本当に美味しいな。みんなで食べると」
目の前にいる三人をみて、心も体もあたたかくなる。
こんな日が来るなんて思っていなかった。ずっとあの寂しいのが続くと思ってた。
「ねえ、マナ」
シンが肩を寄せてきて、「携帯で写真撮らない?」と囁く。
「写真?」
あまり撮ったことがない。正直、苦手。お父さんと一緒に撮った時も、すごく照れた。
「だって、今日は記念よ。マナの誕生日に、ナオトが振られた日」
「え」
思わず声を上げそうになった。こそこそと囁きながらの会話。
「だってそうなんでしょ?気持ちは聞いたってさっき言ってたし」
「た、確かに聞いたよ。で、でも振ったとか振られたとか」
言葉を濁すと、聞き耳を立ててたお兄ちゃんが「確かに振られた日だな」と言った。
「お兄ちゃん」
「いいよ。お前の誕生日で、俺の失恋記念の日にしても」
どんな顔していいのか、困る。どうしよう。
「じゃあ、もういっこ増やせる?」
と言い出したのは、凌平さん。
「もうひとつ?なにかあったんですか、今日」
そう聞けば、凌平さんがお兄ちゃんへと向き直る。
「ナオト」
「……なんだよ」
怪訝な顔つきになるお兄ちゃん。
「くれよ、マナ」
まるで遠足でお菓子くれよって言ってるのと変わらない口調で。