spiral
 遡る、時。

あたしが7歳。妹のアキが2歳の秋だった。

もうすぐ誕生日のアキ。

可愛くてたまらなかった。

ママに任されていた子守りも、アキが笑ってくれるから辛くなかった。

普段から風邪をひきやすく、喘息もあって、いつも咳をしてた。

ママが夜の仕事に行ってる時は、縦に抱っこして一緒に眠った。

パパは就職してはすぐに辞めてきて、ママの収入だけが生活を繋いでいた。

 その夜も、アキは咳をしていた。

熱はなかったものの、どこか辛そうだった。

薬を飲ませて、背中をさすってあげて、絵本を読んで。

元気になって笑ってほしかった。

大好きな、あたしの可愛い妹、アキ。

そんなアキを置いて、今日もママは仕事に行く。行くしかない。

ママが休むと収入が減る。だから、仕方がなかった。

7歳の時はそんなことまでわからなかったけど、今なら少しは理解できる。

化粧をして、お客さんと時々メールをしながら着替えをしてたママ。

パパがおもむろに、こう言いだした。

「今日、お前の店に飲みに行っていいよな」

って。

「あんたの今の仕事は、二人の子守りでしょ」

淡々と返すママの声は、どこか冷たい。

「でもよ、ほら。マナが子守り出来るし、同伴したら点数増えるだろ」

パパは笑いかけ、ママに頼み込む。

「……どうなのよ、マナ」

「え?」

きっと断ってくれるだろうと期待してた。

「いいよな?パパだって息抜きしなきゃ、どうにかなっちまう」

「年がら年中息抜きしてるくせに」

そんな二人の会話を聞き、必死に考えた。7歳の頭で。

「でもね、マナが出来ないって言ったら、無理なのわかってるでしょ」

冷たいまなざしで見下ろすママ。そして、

「出来ないはずないよな。もう7歳なんだからよ。な?」

顔は笑ってるのに、目がギラギラしてて怖いパパ。

「う、うん」

そう返す以外の選択肢がなかったんだ。
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