spiral
「俺、幸せかも」なんていいながら、笑うんだ。
「起きない。出てこないんだよ。マナのそばにいる時は、おふくろが」
それはきっと辛かったんだろう。それくらい、出てこないことが嬉しいみたい。
「けど、今、嬉しいはずなのにさ。複雑なんだよね」
あたしにニッコリと泣きながら笑いかけて、
「おふくろが、今になってさ……。空に逝っちゃったみたいで」
悲しい思い出との別離。それは嬉しくもあるのに、寂しさがあふれてくること。
「なん、か……さ。今、一人で置いてかれたみたいで……さ」
凌平さんが震えながら、でも笑ってるの。無理してる。なにか、誤魔化してる。
感じた気持ちそのまま、あたしは体を動かした。
「……マナ」
膝立ちになって、凌平さんの体を覆うように抱きしめた。
「大丈夫です」
あたしがいつも使ってた強がりの呪文。
今は、すこしでもいいから、凌平さんの心の荷物を一緒に持ってあげるための言葉に変える。
はだけたままの服。あたしの素肌に、凌平さんの頬が触れている。
「……あったかいね」
本当はすごく恥ずかしい。抱きしめてるから顔は見られない。でも、見られてるような気になってしまう。
(だって、心音がちょうど聴こえてしまう位置に、凌平さんの耳が)
自分のすべてを見られてるみたいで、体が震えそう。けど、今、体を離すわけにいかない。
あたしは知ってるから。体温が、人を安心させることが出来ることを。
あたしが飢えていたもの。そして、みんながくれたもの。教えてくれた安心できるもの。
今あたしが凌平さんに何か出来るとするなら、これが一番喜んでもらえそうで。
「置いてかれてないです。大丈夫だから。お母さんは、そばにいます。きっと」
ゆっくりと鼓動に合わせるようにして、言葉を送る。
「マ、ナ……」
凌平さんが背中に回した手で、あたしのシャツを握った。強く握って、小刻みに震えてる。
「泣いてください。もっと楽になっていいんだと思う」
あたしも強く抱きしめる。あたしの体温が凌平さんをあたためられるようにと願いながら。
「付き合います。凌平さんが自分を取り戻せる時がいつか来るまで。あたしが相手で本当にフラッシュバックが起きないのか、何度だって試していいです」
もしも、と、想像した。凌平さんが本当に誰かを抱けるような体に戻った時。
その相手が自分以外だった時を想像したくなくて、自分にして置き換えた。