spiral
「いいの?そんなこと言っても」
いいながら、胸にすり寄ってくる。
怖くないわけじゃない。ママとのことがあるし、あの時同様で痛いんだと思ってる。
「いつか、凌平さんが誰かを抱きしめるの。想像したくないんだもん」
それでもそっちの胸の痛みを回避したくて、あたしは凌平さんに伝える。
「好き……です」
小さな波紋が胸の奥で広がっていく。
小さく芽吹き、気づいてても傷つかない道を選んできたあたし。
ママのこと以外で、もっと傷が増えるのが嫌だった。
「本気にするよ、俺。やっぱり嘘ですとか、ナシね」
言葉で答えるかわりに、抱きしめたまま髪を撫でた。
膝立ちのまま抱きしめて、どれくらいの時間が経ったのか。ブルッと体が震えた。
「あ、ごめん。寒かったよね」
凌平さんが体を離した。その瞬間、離れた場所が寒くてたまらない。
「今、リビングのヒーター入れなおしてくるよ」
凌平さんがベッドを降りた時、服の裾を咄嗟につかんでた。
「すぐに戻るって」
くすっと笑い、リビングへいなくなった。でも本当にすぐに戻ってきて、こういった。
「そんな顔で待っててくれたの?」って。
そんな顔って、どんな顔?
両手で顔を隠すと「もったいないから、隠さないでよ」と両手を外される。
俯きがちに下から覗きこむと、凌平さんが嬉しそうにあたしを見てるの。
「な、なんですか。そんなに変、ですか」
決して可愛いとは思えない自分の顔。みないでともっと俯く。
「マナって、一度相手を自分の中で存在するの許可しちゃったら、めちゃくちゃ甘えそう」
なんていいながら、無理に顔を上に向かせられる。
「やです。恥ずかしいから」
手を押し返そうとしても、「ダメ。俺がヤダ」と許してくれない。
「だってさ、ナオトにだけあんなんじゃん。ナオトにどんだけ気を許してるのか、やっとわかったかも」
そういってから、「あー、もう。なんか今さらだけど悔しいし」と拗ねた。
ベッドに腰かけ、あたしの横にズレてくる。
「もうこの先、甘えるのも泣くのも、全部俺だけにして」
頭に浮かんだ言葉を言ってみた。
「それって、独占っていう」
そこまで言いかけた時、「ちょっと違うね」となぜか偉そうにいい、
「拘束したいのもあるんだ。俺から離れられないように、縛りつけておきたい」
独占と何が違うのかわからないまま、凌平さんが肩を抱くのを拒まなかった。
もう、拒む必要も理由もなくなったもの。