spiral

「ほらね。こんなに違う」

心から笑ってるんだと思う。あどけない顔になってるから。

「ふふ。マナのそんな顔も初めてだな」

どちらからともなく、顔が近づく。ごく自然なキス。触れるのが当たり前のキス。

そのままベッドにゴロンと寝転がり、何をするでもなくくっつくだけ。

「いつか、抱けたらいいな」

あたしの頬を指先でさすりながら、そう呟く。

「抱くことが叶わなわかった時、あたしって」

特別じゃなくなるのかなと不安に駆られ、最後まで言葉を言えずにいると、

「体だけの関係ですますつもりないんだから、そんなこと思う必要ないよ」

そういってから、哀しげな顔つきに変わる。

「どっちかっていうと、俺の方が不安だよ」なんていう凌平さん。

「マナがいつか、触れてほしいと思った時に無理だったらさ」

「無理だったら?」

聞き返すと、「待てないって言われて、捨てられちゃいそう」なんて寂しげに呟いた。

捨てるという言葉に、頭に浮かんだ捨てられたあたし。置いて行かれたあたしを思い出してしまった。

「捨てたりなんか」

そんな寂しいことしないもんと胸の中で誓う。

「……ごめん。なんかさ、アレだよね」

「アレ?」

「なかなか話が通じないマナに話が通じて、気持ちも通じて。やったー、両想いだ!って思ったのに」

思ったのに、なんだろう。

「両想いになった方が不安が増すって、なんなんだろうね」

両想いの方が不安?あたしはどっちでも変わることなく不安は残ったまま。自信がないから余計に。

「マナなんか特に自分の気持ち、言ってくれないから。というか、自分の気持ちにかなり鈍いからね。こっちから誘導して聞きださないと厳しそう」

それってテレビドラマでみたことがある、誘導尋問みたいなのかな?

なんて想像してみて、なんだか怖いなと思った。うっかり何かを言いそうだもの。

「ま、いっか。今はこうして俺の横にいて、笑っててくれてる」

いいながら、腕をあたしの肩に回して抱き寄せた。ベッドでくっついて、凌平さんの香りの中で過ごす。

「ですね」

あたしも自然とこれでいいって思えた。

「こんな風に誕生日が来るなんて思っていなかった」

あたたかいだけの誕生日になった。お兄ちゃんのことはあったけど、結果的により強く繋がった気がした。

「うん。俺もそういう日に、こんなにそばにいられて幸せ」

幸せという言葉。大きな幸せじゃなく、こんな感じで小さな幸せを積み重ねていける毎日が増えますように。

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