spiral
そう感じて、思い切って自分から凌平さんの胸元にすり寄った。
「あは。嬉しいことしてくれるね」
いいこいいこは、あたしを癒すから好き。不安を削ってくれる。
「……マナ?」
ママは今、お父さんとずっと一緒。赤ちゃんのことがあっても、こんな風に、
「なんだ、寝ちゃったのか。残念」
誰かのそばにいる自分を嬉しく思えていたらいいな。
「すこしずつ、マナを教えてね」
毛布をかけてくれて、包み込むように抱きしめて。
「大好き。俺のマナ」
凌平さんの体温に包まれて、あたしは誕生日を過ごした。
触れているだけでもいい。肌じゃなくても、気持ちの方が多く触れていたっていい。
あたしと凌平さんらしいスピードで近くなれたら……きっと……。
(ママがどこかで夢見てた二人になれるかな)
暗く深い闇ばかりだったあたしの夢。今日はきっとすこし陽の射した夢が見れますようにと願った。
熱い。ううん、暑い?どっちだろう。
「マナ?大丈夫?」
ぼんやりと瞼を開ければ、心配した顔の凌平さん。
「あたし」
体を起こそうとするのに、力が入らない。
「風邪引かせちゃったかな。そんなことなにもしてないのに」
風邪?あぁ、そうか。それで熱いのか。
「何やってんだろう、誕生日の次の日に熱出すなんて」
せっかく凌平さんがそばにいてくれるのに、心配かけてるし。
「食欲は?」
「わかんないです」
「そっか。……昨夜の鍋の材料、まだ少し余ってるから、雑炊でも作ってみよっかなって」
「お鍋?」
片付けもしないで寝ちゃってたのか。
「あの」
「うん?なに、吐き気でもする?」
ううんと首を振って「ごめんなさい」と謝る。
「なんでそうやってすぐに謝るかなぁ」と呆れながら呟き、しゃがんで顔にかかる前髪を指で梳くってくれる。
「病人は大人しく寝てること。一人暮らし歴はマナより上だからね、料理はそこそこ出来るんだ」
腕まくりをして「寝て待っててね」といなくなった。
すこしするとリビングの方から水の音や、何かを切ってる音がする。
お兄ちゃんと一緒に暮らすようになったら、あたしが出してた音。
こんな風に誰かが自分のために聞かせてくれるなんて、不思議でたまらない。
なんてことない包丁で刻む音。ガス台の火を点ける音。
「いいな、こういうの」
どれだけ憧れていたのか、自分の胸が苦しくなって痛感する。
飢えていた時間が長かった。今はもう、飢えなくていいんだよね。