spiral
「よかった。全部食べられたね。もうすこし横になってなよ」
器をもってリビングへと消えていく。シンとまたすこし話をして、やがてシンは帰っていく。
「あとでナオトと来るから」
それだけ言って、ニッコリ笑って出て行った。
やがて凌平さんが、雑炊を手に部屋に戻ってきた。
「なんか、デザートっぽいのが先になっちゃったね」
とか笑う。
「ううん。美味しそうな雑炊」
土鍋を開けると、いろんな色が目に飛び込んできた。それだけで食欲が湧く。
「そういう顔みてると、頑張って作った甲斐があったな」
トレイをベッドに置き、すこしずつ食べる。
そうしてゆっくりとした時間を過ごしていく中、凌平さんが話し出した。
それは、お母さんとの思い出。もう、思い出さないかなって思ってたことだったらしい。
「思い出したら、寂しくなるの嫌だったのかも。そういうのから目を瞑って逃げてたのかな、どこかで」
逃げてたという言葉に、凌平さんのイメージが重ならなくて首をかしげてた。
「なんていうのかな。母子家庭だっただけにか、おふくろがとにかく必死にいろんなことしてくれたんだよね。しすぎちゃってたっていうか」
うんうんと頷き、雑炊を口に運ぶ。
「過保護っていうかね、ムキになってた部分もあると思う」
天井を見上げ、ふうっとため息をつく。
「そんなにしてくれなくてもよかったんだ。だってさ、俺の中で憶えてるったら、さっきのすりおろしリンゴとか、二人で作ったパンケーキとか。食い物の思い出ばっか」
「さっきのも?」
「……うん。ものすごく久々。すってみて自分で食べてみたけど、やっぱなんとなく違ってたのが不思議」
「そうなんですか」
「うん。特別なリンゴ使ってた記憶ないんだ。でも何かが違ってた。あ、そうそう」
といい、あたしの顔を見て柔らかく微笑む。
「さっきひとつだけ、おふくろの気持ちがわかったことがある」
「お母さんの気持ち?」
あたしの頭に大きな手のひらを乗せ、ゆっくりと撫でながら呟いた。
「食べさせてあげながら、無意識で心の中で言ってた。元気になぁれって」
「……え」
その頬笑みは、とても温かな笑顔で、あたしは胸がじんわりとあたたかくなる。
「これを食べたらきっと楽になる。元気になる。また一緒に笑える。そんな思いをね、ひと匙ごとに乗せながらマナに食べさせてた。……バカみたいだろ」
あまりにもあたたかくて、切なくて。あたしが欲しかったものの一つで。