spiral
epilogue~only~

 四月。ママが弟を産んだ。名前はハル。アキと同じく、簡単に付けられた名前。

お父さんとも一緒に暮らすことが叶わないまま、弟は家に来た。

「ハル。お姉ちゃんだよ」

懐かしい感触と感覚。涙が浮かんでしまう。

「たくさんたくさん、お姉ちゃんと一緒にいようね」

ふにゃふにゃと柔らかい肌の質感。甘える仕草。そのどれもが愛おしい。

凌平さんのお母さんがそうしたように、あたしもたくさん伝えられますようにと、ハルを優しく抱きしめた。

 それから、3年。ハルはたくさん話すようになった。

最近ハルが聞いてくるようになったこと。

「ハルのママ、どこ?」って。

あたしがそうだと嘘をつけばいいのかもしれなくても、それは許したくなかった。

「いつか帰ってくるよ」

その願いは、あたし自身の願いでもあるまま。ママといつか……なんていまだに時々思う。

「ほんと、お前って諦め悪いし」

お兄ちゃんはそういって笑う。

「仕方がないでしょ。……好きなんだもん」

苦笑いして、ハルと手をつなぐ。

「さあ、もうすぐ着くからね」

今日は墓地に来た。

メモを見ながら、深呼吸をする。

「緊張してるんでしょ」

水を汲みながら、凌平さんがこっちをみた。

「だって、こんなに経ってるのに初めてなんだから」

あたしは今日初めての場所に訪れた。アキが眠る場所に来た。

心臓がさっきからうるさい。メモを見て歩いてるのに、とんでもない方向に歩いてたりして。

「落ち着けって」

お兄ちゃんが苦笑して、あたしの手からメモを取り上げた。

「ついてこいよ」

その声に、ガッカリしながらついていく。

「ほら、行こう」と凌平さんが肩を抱いてくれる。

砂利を踏みしめて、お兄ちゃんの後を追う。

シンがこっちよと手を振っている。早く行かなきゃと思うのに、足が重たいままだ。

「大丈夫だから、行こう」

凌平さんがギュッと手を握ってくれた。あたしもそれを握り返す。

あたしの手をハルが握る。目を合わせると、無邪気な顔で笑う。それがなぜか胸に痛い。

ゆっくりと時間をかけてお墓の前に着いた。

「ほら、これできれいにするのよ」

シンがお墓参りの手順を教えてくれる。お墓をきれいにして、それからお花を供えて。

「これ、可愛いわね」

気づかなかった。

お墓をぐるりと囲うようにブロックが積んである。その傍ら、小さな小さなお地蔵さま?これ。

「水子地蔵だな、これ」

お兄ちゃんが、水をかけ、お地蔵さまもきれいにしてくれる。

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