spiral
「このお地蔵さん、オシャレしてるんだね」
凌平さんがそういい、指した先。お地蔵さまの体に、光るものがあった。
これ、宝石なのかな。なんだろ。思わず凌平さんを見る。専門だから、知ってるかな。
「マナ。妹って、何月生まれ?」
「十月」
そう返すと、ふうんと言うだけで黙った。
「それ、なんて石」
聞けば、「色が抜けてきてるけど、多分ローズクオーツ」という。
「心の傷や、過去のトラウマを癒す石だっけな。あと、恋愛成就の石っていう方が有名かも」
水子地蔵の眉間にあるその石。
ママはどういう気持ちでこれをつけたの?
「偶然かもしれないけど、誕生石がついてるっていうことは、そんなに悪い意味じゃないと思うけど」
あたしの気持ちを察したのか、シンがそういって両手を合わせた。
あたしも倣って手を合わせる。ハルも見よう見まねで手を合わせた。
アキが空に逝って、もうすぐ12年になる。
ハルを育てて、あの時から出来ずにいたことを埋めようとしている自分が見える時がある。
代わりなんかじゃない。アキはアキ、ハルはハル。
そう思うようにしてても、心の奥底にあったんだと思うその罪悪感から逃げたくてか、必死になってハルに尽くすあたしがいる。
「アキ……、お姉ちゃんやっと会いに来れたよ」
今の自分がいいのか悪いのかわからずに、迷って苦しくなった。
そんな時、お兄ちゃんがあるメモをくれた。お父さんが聞きだしてくれたというこの場所。
会えなくなっても、お父さんはあたしが抱えているものを遠くからでも見てくれている。
そう感じられただけで、胸がいっぱいになった。
「かわいいねー」
そういいながらハルが、お地蔵さまを撫でる。まるで、アキを撫でているようにも錯覚した。
あたしがそうだったように、アキももっとたくさん撫でてほしかったに違いないなって。
「そうだね。……ハル」
「なぁに?ねーたん」
甘い声に顔を緩ませる。ハルのようにお地蔵さまの頭を撫でながら、教えてあげる。
「ここにね、ハルのお姉ちゃんが眠っているんだよ」
あたしがそういうと、なんの躊躇いもなくこう返してきた。
「だから、おめめ、つぶってるんだぁ」
安らかな笑みを浮かべたお地蔵さまの表情。その頬を指先でつつき「かわいい」を繰り返す。
「……そうだね」
心から願う。この表情そのままに、安らかに空で過ごしてくれていますようにと。
立ち上がり、墓地を後にする。車に乗り込む前に振り返る。
「また会いに来るね」と笑顔で手を振った。