spiral
あたしが二十二歳になって半年後の六月。凌平さんが結婚しようと言ってくれた。
急に言いだすから、何の用意も出来てない。
衣装はシンが用意してくれた。
あれから、シンは一時いなくなった。性転換手術を受けに行き、体も女性になった。
それでも子供を産めるわけでもなく、そこだけは勝てないわと頬笑む。
シンの仕事は服飾デザイナー。まだなりたてだけど、ネットですこしずつ仕事が入るようになった。
お兄ちゃんとネットショップを開き、二人でどんな時も一緒になった。
「ね、マナ」
「ん?なぁに、シン」
ドレスの調整をしながら、シンが呟く。「ハルちょうだい」って。
「え?な、なにいってんの」
驚いた。そんなの無理な話だよって。
「……冗談よ」
そう言いはしたけど、なにかを思いつめているように見えた。
ドレスは太ももの辺りから斜めにカッティングされた布地に、レースが流れていくように縫いつけられたドレス。
そして、お腹が目立たないようにと大きめのフリルをあしらっている。
「体調大丈夫なの?」
「あ、うん」
急に話が変わった。やっぱり何か悩んでる。シンが言わないなんてよほどだ。
「無理しちゃだめよ。大事な体なんだから」
「……うん」
調整を終わらせ、あたしはすぐにお兄ちゃんに連絡をする。
シンの話をするとお兄ちゃんは、「わかった」と短くいったまま黙ってしまった。
あたしに告白をして、それから。あたしとお兄ちゃんはそれまで以上に仲良くなった気がする。
とはいっても、体の関係があるわけはない。心の問題。もっと遠慮なく話せる関係になれた。
「ね、お兄ちゃん。シンのこと、好き?」
あたしがそう聞くと、「大事に想ってる」とすこし間を置き答えてくれた。
言葉を選んでいたのかな。
「そっか」
「あぁ」
そうして電話を終わらせ、あたしはまた歩き出した。
お腹の中で時々主張する赤ちゃん。あたしたちの赤ちゃん。
「もうすぐ、パパに会えるよ」
凌平さんをお迎えついで、一緒に買い出しをしようと思ってた。
気がつけば夕暮れにさしかかっている。いつも変わらない空。きれいなオレンジ色。
オレンジは、あたしたちにとって大事な色になった。