spiral
まっ白い備え付けのベンチに腰かけて、二人の話を聞く。
ちょっと距離を置いて座ったのに、お兄ちゃんがすぐに距離を詰めてくる。
「や……っ」
話をちゃんと聞くまでは怖い。
「ナオ」
静かに伊東さんが名を呼ぶと、「悪かったよ」といいながら、すこし距離を置いてくれた。
「あのね、マナちゃん」
切り出したのは伊東さん。
「マナちゃん、この後、あの部屋に戻ろうとしたの?」
不意に聞かれて、さっきまでのことを思い出す。
少し躊躇ってから、首を左右に振る。
「じゃあ、逃げてどこに行こうとしてたの」
その質問にも首を振った。実際親戚の居場所も知らないから、どこにも助けを求められない。
学校で友達もいないから、相談も出来ない。
そう考えると、ママに置いていかれるまでもなく、あたしは常に独りだったんだなって苦笑いをした。
「女の子が。ましてや、縁あって家族になった子が、たった一人でどこかにいるのかと思うと、気が気じゃないよ」
「……」
「僕ね、香代さんの携帯を見てしまったんだ。マナちゃんに送られたメールをね」
ドクンと心臓が大きく脈打つ。
脳裏に焼き付いて離れない、あのメール画面。
不要よと書かれただけの短いメール。
「お客さんからだから名前見てほしいと言われ、香代さんの携帯を操作してたんだ。そうして閉じようと思った携帯をね、どうしてか閉じられなかった」
「……はい」
「マナちゃんとちゃんと話せなくなってただろ?親子なんだから、何か連絡してるのかなって思ったんだ。一緒に暮らしていなくても、多少はってどこかで思ってたんだ。僕は」
「……はい」
必要な時以外、そんなものなかった。思い出すと胸が痛い。
「まさかってね。これでも僕が守りたいと思った女性だったから」
そういう伊東さんが、すこし辛そうに見えた。