spiral
「香代さんと守りたいと思った。彼女の抱えてるものを軽くしてあげたいと」
(ママが抱えてるもの?)
「でもね、マナちゃんを守りたいと思うのもあるんだ。だって……僕の子供だから」
伊東さんがそこまで話したところで、お兄ちゃんが口をはさむ。
「で、お前を守るのに俺が力を貸そうって」
「……お兄ちゃん?」
首をかしげながらみつめると、うんうんと頷く。
「オヤジはオヤジで店のこともあるし、新しい母さんのこともある。全部は無理だからな」
「悪かったな、全部出来ない親で」
苦笑いでお兄ちゃんに話す伊東さんは、どこか嬉しそうにも見える。
「俺はさっきオヤジが言ってた、新しい母さんが抱えてるってーのはよく知らねぇ。それに子供がなにか出来るとも思ってない」
「……うん」
そうだ、ママが何を抱えてるのかあたしも知らないんだ。
「あの、ママが抱えてるって?」
伊東さんに聞いても柔らかく微笑むだけで、「今は言えないんだ」しかいってくれない。
これ以上は聞けないってことかな、あたしのママのことなのに。
「あの場所に帰すわけにはいかない。香代さんには新しい住所は教えない。今通ってる学校も、受験直前だけど転校しよう。事実上、僕はマナちゃんの父親だ。手続きは僕がする」
リアルな話が、伊東さんの口から語られていく。
「もう一人でいるのは止めよう。ナオもこっちの学校に転校させるから」
その言葉を聞いて、自分のために誰かが犠牲になるのは嫌って思った瞬間、勝手に体が動いてた。
「ダメ!」
ベンチから立ち上がって、伊東さんに向かって叫んでた。
「マナ……ちゃん?」
「だって、お兄ちゃんまで転校だなんて」
高校っていうことは、自分で行きたくて行った学校だよね。
あたしのせいで行けなくなるなんてダメだ。
「いいんだって、学校くらい」
焦るあたしとは対照的に、お兄ちゃんは淡々とそういった。
「勉強はどこででも出来る。いいじゃん、別によ。家族なんだし」
今のあたしには、言っちゃダメな言葉まで。