spiral
「違うよ。だって、あたしはママに新しい家族って言われてないんだし」
認められていない関係。
それを勝手に進めたら、きっともっと怒られる。
「僕が認める。それだけでいい。香代さんには時間が必要なんだ」
「時間って……どれだけ離れていれば、ママに認めてもらえるの?あたし」
寂しかった思いがこぼれていく。
「ママは一人で新しい家族を作ろうとした。それは事実でしょ?」
あたしは要らない。だから置いて行った。
「だから、不要だってあたしに……あん、な、メールして」
上手くしゃべれない。
「ママに許可されてないこと、勝手に出来ない」
首にそっと触れる。あの感触がまだここにあるようだ。
(また……あんなことされたら)
呼吸が乱れてくる。
殺される。次は消すって言ってたママ。
「嫌!いい、あの場所に帰るから」
差し出された手を、素直に掴めたらきっと楽。
「このままでいい。関わらなくていい。そうしたら、ママに叱られることも、嫌われることも、これ以上はないでしょ?」
ママもあたしが下手なことをしなきゃ怒らないはず。
「波風を立てないで。いいの!このまま独りで」
そう言った刹那、頭の中でいろんな声がする。
本当にいいの?寂しいんでしょ?っていう声。
ママにいつかは好かれるよきっと、なんて慰めめいた誘惑の声。
楽な方に行けば誰だっていいに越したことがない。
「いいの!」
それでも楽したいと思った瞬間に、ママがやってきそうで怖いんだ。
恐怖感の方が勝ってしまったら、それ以外を選べない。
レストコーナーから逃げようとすると、すぐに腕が引っ張られた。
「マナ」
「お兄ちゃん、離して」
何度も掴まれた手。温かな手だ。
「お前、何かされたのか?」
その言葉に反射的に首を抑えた。
「……首?なんかあるのか」
今までとは違うまなざし。
話したことがバレるのが怖い。
殺されかけた事実は、誰にも言っちゃダメだもん。
「何もない!」
言えば言うほど、疑われるっていうことをあたしは知らなかった。