spiral
店を出て、しばらく車を走らせる。
途中で夜食にと買ってもらった、サンドウィッチとレモンティー。
お兄ちゃんは焼き肉弁当を買ってもらってた。
新しい部屋だよと言われた場所には、あたしがカギを開けて最初に入る。
「早く電気つけろよ」
「あ、うん」
らしい場所に手を伸ばし、明かりをつけて驚いた。
「は……」
ため息とも何とも言い難い息が出た。
冷蔵庫に、小さめのレンジ。テーブルがあって、ローソファー。
キッチンとすぐ横のバスルームの間に、コンパクトな洗濯機。
「あ!ベッド」
隣の部屋には、何も敷かれていないベッドがポツンと置かれていた。
「マーナー!荷物ー」
玄関でお兄ちゃんが叫んでる。
「はぁい」
気分が高揚してくる。
本当に新しい生活をここで始めるんだっていう気分が、自分の胸の中に溢れだしてきたんだ。
「ラグは重いから、こっちのベッド関係の持っていけよ」
「うん」
元気よく返事をして、レジ袋を受け取った。
「じゃ、どんどん置いてくから、持てるものあったら持ってけよ」
「はぁい」
慌てなくていいのに、自然と動きが軽く、早くなっていくんだ。
早く荷物を整えて、自分の部屋を作りたいって。
ラグ、どの位置に敷こうかな。
さっき伊東さんがオマケって言って買ってくれた、水色のパジャマ。
ふかふかの真新しいバスタオル。
どれもこれも、あたしのためだけに揃えられたもの。
単純だっていいよね。
楽しい。まるでさっきの食事みたいなんだ。
「これって」
「あー、食器だから」
「気をつけなきゃだね」
「あ……そうだな」
タタタッとリビングに行き、テーブルの上にレジ袋をソッと置く。
「まだあるのかな、お兄ちゃん」
きっと恥ずかしいくらい浮かれてる。
興奮気味に急かしてるあたし。
あれもこれもやってもらってる立場なのに、本当はダメ……だよね。
「いいな、お前のそういう顔」
ダメだよねとよぎっても、お兄ちゃんの言葉がそれを許してくれる。
「そ……っかな?」
嬉しいのに照れくさい。
あたし、今、どんな顔してる?