spiral
「それって」
言いかけて、言葉が喉で詰まった。
ママがニヤッと笑ったのを見て、わかってしまったから。
「あんたが引っ越したのも、手助けしたのが一馬さんだってことも。それに、どこの高校に入ったのかも知ってるに決まってるでしょ」
「だって、伊東さん……」
何も言ってないって言ってた。
「大人はね、嘘をついて世の中を渡っていくのよ」
その言葉で、伊東さんに嘘をつき続けられたんだと思った。
脱力する。信じかけてて、贈り物をしたいって選んでたあの時間。
ドキドキしながら選んだメガネケース。
「大人には自由があるわよ。それと、生きる術もね。いろんな経験をして、そうしてママも大人になったの」
バッグからもうひとつ、きれいなピンクの瓶を手にした。
「で、でも、ママ」
言わなきゃよかったのに、この時のあたしはママが言った言葉に疑問が浮かび上がってしまったんだ。
聞かずにはいられなかった。
「ママ、ちっとも自由にお金使えなかったじゃない」
パパに渡したり、支払いしたり。
ママが自分に使った時って、あまり見た記憶がなかった。
「……ん?何か言った?」
ゆっくりと確かめるように呟く声。とても低い声になった。
「え。だ、だから」
もう一度言いなおそうとすると、バチンという音と、痛みが一瞬で走った。
ポタポタと鼻から血が流れた。
「バカね、やっぱあんたって」
そういい、反対の頬をまた大きな音をさせ叩いた。
放心し、痛む頬に手をあてた。
「殺しゃあしないわよ。……死にたくなるかどうかは、あんたに選択肢をあげるから」
そういいしゃがんで、あたしの足首を握る。思い切り引っ張られ、床に仰向けになった。
「マナ」
低い声が、命じる。
「足、開くのよ」
やっぱりあの時と同じ、目で見下ろしながら。