spiral
ママがそういった、その向こうで音がした。
「ケンちゃん、早いわよ。まだ待ってて」
その音は、シャッター音。
「ほぉら、早くしてよ。こっちも忙しいんだから」
そういわれても、見知らぬ男の人がいて、カメラを構えてて、自分は裸で。
「出来ない!」
足を閉じようとするものの、ママの膝が足の間に入り込む。
「聞きわけがないわね」
またバシンと叩かれて、口の中が鉄の味しかしなくなる。
「ほら、さっさと開いて」
力が入らない。というよりも、震えが止まらなくなった。
「ガクガクしないでよね、やりにくいったら」
文句を言いながら開いた足の間に、ナニカをあてる。
「何、し……て」
たどたどしく聞くと、「今、わかるわ」と言った。
冷たいヌルヌルした感触。恥ずかしい場所にママが触れている。
「力抜かなきゃ、痛いわ……よ」
痛いわよの“わ”の時に、背中に電気が走った。
「痛ぁぁぁ……い」
悲鳴。
足をジタバタ動かすたびに、ママが顔を叩く。
「ほら、動かすわよ。動くともっと痛いわよ」
体内に異物感が入り込む。
粘着質な音が部屋に響き、その隙間にカシャカシャとシャッター音が響いた。
「これが大人になるってことの第一歩よ」
ママの目が光ってるように見えた。ギラギラとして、怖いだけ。
いろんな角度から撮られている、こんな姿のあたし。
次第に涙でなにもかも見えなくなる。
「そう。大人しくしてて、いい子ね。マナ」
ちっとも褒められている気持ちになんかなれないよ、ママ。
心の中で呟く。
(もっと違う形で褒めてほしかった時が、あの幼い悲しみの日から何度もあったんだよ)
と。
ママが呟く。
「そういう顔、いつまでしてんのよ。……だから嫌いなのよ、あんたを」
そういったママの声は、苦しげに聞こえた。