spiral

「あんたのパパも結局、最低の男だったわよね。子守りは出来ない。仕事もしない。金食い虫なだけの男」

こんなに話すママは初めて見る。

それも逆に怖くてたまらなかった。

「子供に期待しなきゃよかった。産まれたら何か変わるって」

煙を吐きながら、どこか遠くを見てるママ。

あたしは一体、どんな気持ちでママを見ていればいいの?

「だいたい妊娠してる時から邪魔くさかったし。……なんでたかだか子供に期待してたんだか、今じゃわからないわね」

その言葉に思わす、言葉を返す。

「邪魔」

確認のように発した言葉に、フンと鼻を鳴らして、

「そう、邪魔」

言い切った。

そうしてもう一本、今度は胸の先端に押しつけられたタバコ。

言葉にならない悲鳴。

ジクジク痛む傷。

「体型変わるし、寝かせてくれないし。人に仕込むだけで、他の女のところウロウロする旦那だったし。愛情もへったくれもないじゃない」

ゆっくりと立ち上がり、カーテンと窓を閉め、ニッコリと微笑んだ。

「二人目はね、あんたがいたから堕ろさなかったのよ。ハナッから子守りのために生かしていたのよ」

「それだけ……で?」

か細い声でやっとそれだけいうと、

「それだけよ」

微笑んだまま呟く。

「子供を産んだからって世界が変わる?……冗談でしょ?何が変わったっていうの。旦那?旦那の親?近所の誰か?」

微笑んでいるのに、どうして?

ママが……泣いてるみたいだ。

「あたしを取り囲む何もかもが、あたしのためや……子供のために変わることなんかなかったわよ。なんか、賭けに負けた気分だわ」

開けていない窓。そっちに向かって、ただ何かをみているようにみえる。

何を見てるの?

何を思っているの?ママ。

こんなママの過去の話を聞いて、あたしはどうあればいい?

傷ついてる。そう思った。

本当は悲しい?そう感じた。

だけどあたしになにが出来る?

ママがあたしにして欲しかったのは、消えるということ。

けど、あたしは生かされて今こうしている。

ママには今、伊東さんがいる。

なのに、どうしてこんなに辛そうなの?

「ママ」

こっちを見ずに「なに?」とだけ返ってくる。

「寂しいの?」

聞いちゃいけないことを、つい聞いてしまった。

子供ゆえの浅い考え。

思いついたからといって、言っちゃいけないものもあるんだということを、痛みの後に気づかされる。

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