spiral
「うぐっ!」
ママの足が脇腹を思いきり蹴り上げた。
「余計なこと言ってんじゃないわよ!一人で生きてもいけないくせに」
鬼のような形相。
「あたしが一人になってからなんて、今のあんたみたいに恵まれてなんかいなかったわ」
ハァハァと呼吸を乱しながら、反対側からまた蹴り上げられる。
「うあ……っ」
中で骨がジンジンしてるみたい。
もう一度、お腹を踏みつけてあたしに唾を吐くように言い捨てる。
「繰り返すわよ、あんたも。あたしが親にされたことを繰り返したようにね。っていっても、親になるような歳まで生きてればの話だけど」
床に転がっていたあたしの服を、そのへんにあった袋に放り込む。
キッチンのシンク下の扉を開け、「ほら」という。
「ここに包丁だけはあるから。死にたくなったらいつでも使いなさいな」
裸のままで、置き去りにされた。
スタスタと玄関の方に行きかけて、顔だけ振り向いて一言。
「それがママからの最後の贈り物よ。……くくっ、あはははは」
笑いながら部屋から出ていく。
ママがいなくなって、急に寒気が体中を走っていく。
ママがあたしにしたことを頭の中で思い出す。
最初から最後まで思い出すと、それはどう考えても自分の子供にする仕打ちじゃない。
愛されていない。
わかってても、どこか依存して心の中で甘えられるその時を待ってたんだ。
ゆっくりと体を起こし、部屋を見回す。
本当に何もない部屋。
カーテンと、包丁。
それだけの部屋。
持っていた携帯も、買っておいた三人への贈り物も。
なにもかも、この手に残っていない。
(伊東さん)
ママは言ってた。伊東さんが教えてくれたって。
(伊東さんのこと、一馬さんって呼んでたな)
そんなどうでもいいことを思い出す。
パパにはそんな風に呼んだことなかった。
どこか小馬鹿にしたような呼び方だった。それでよくケンカになってたっけ。
俯くと、胸と太ももに紅く残るタバコで出来た火傷の痕。
本当に起きたことなんだと実感せざるを得ない。
「……うあ、あぁぁぁっっ」
頭を抱え、床に正座したままうつ伏せた。