spiral
ママに対しての感情で、初めて感じたもの。
「く、悔しい」
急激にくる怒りの方がよかったのに、どこまでもあたしって人間は呑気だ。
じんわりと侵食していくかのように、悔しい気持ちが滲み出る。
あたしを子守りだと言った。
ママの過去の経験が、今のママの姿を作ったんだとしても。
「それでも、ちが……う」
寒さに震えながら、押し出す声。
ママはママだ。あたしは、あたしだ。
ママの過去はママのもので、あたしのものじゃない。
経験があって生かされることも多いって、よくいう。
けど、これは生かしていい経験じゃないよ。
それくらいは分かるもん。
繰り返すことがいいことだらけなんて、思えない!思わない。
生きたくてもがいて、必死になって。
それのどこが悪いんだろう。
「う、ぐっ」
ゆらりと立ちあがり、カーテンを掴む。
取り外そうと背伸びをしかけて、結局、
「あ、うわっ」
体を支えていられなくて、カーテンを掴んだまま倒れた。
冷たい床で、カーテンを体に巻いて寝転がる。
昼間はあんなに暑かったのに、この時間になったらこんなに涼しい。
それに付け加えて、体温が奪われていく行為の繰り返し。
「これ、ぽっちなの、に」
あたたかい。それと、何かに包まれているっていうこの状態がいいなぁって思った。
長く息が洩れた。
このままほっとけば死ぬかもしれないのに、この瞬間は幸せだ。
包まれるっていいなぁ。
「……」
カーテンが外れて見えた空。
あの荷物、捨てられちゃったのかな。
「初めての贈り物だったのにな」
二度と会えないかもしれない。
せめてお兄ちゃんに最期に会いたかった。
あの電話でお兄ちゃんがこの場所を探すことなんか出来ないよね、きっと。
「お兄ちゃん……」
まだ聞いていない、お兄ちゃんの哀しい過去。
聞きたかったって思いながら、襲ってくる眠気に抗えずに眠る。
もしかしたら、起きることが叶わなくなるかもとどこかで思いながら。