spiral

 もう何も吐けないのに、吐き気のせいで目が覚めた。

カーテンを引きずるようにして歩き、トイレで吐く。

カラカラなのに、まだ出ていくの?体に水分あったの?

「はぁ」

四つん這いにならなきゃ歩けない。

吐いたらこんなにも力が抜ける。

リビングとトイレの間、寝転がったまま動けなくなった。

「お腹空いたな」

ポツリと出た呟きに、失笑した。

あたしって、おかしいのかも。

こんな時ですらお腹が減ったとか思ってるし。

体の痛みの方が上回ってるのに、吐き気はまだあるのに。

「それでも、お腹は鳴るんだね」

吐いて出ちゃってるんだからと言い訳すればいいのかも。

にしても、この状況下でなんて平和な考え事だろう。

「あの時の茶そば、美味しかったっけな」

三人でした食事が真っ先に浮かんだ。

ママやパパとした食事じゃなく、明るい店で二人が笑ってた楽しい時間。

小さな気づかいをたくさん感じられた時間だった。

チョコのことだって。

「あ」

伊東さん。

伊東さんのことを思い浮かべるものの、これ以上考えることを止めたくなる。

どうしたらいいのかわかんないよ、これじゃ。

行ったり来たりの頭の中。

もしも生きて帰れたら、どう接したらいいのか決められないよ。

「チョコ、頑張って食べてくれたっけ」

ママが言う伊東さん。

あの時みて、感じた伊東さん。

どっちもを大事にしてくれているって思えばいいだけなの?

「お兄ちゃんに聞いたら、答えてくれるの……かな?それとも」

はぁはぁいいながら呟く。

「お兄ちゃんも?……信じちゃ、ダメ?」

ママのこと、普通に見えたって言ってたもんね。

「またあたしだけ独り?」

まだ決まってもいないのに、頭に浮かんでは消える三人の姿。

あたしと離れた場所で、伊東さんとお兄ちゃんとママが楽しそうにしてる。

「やっぱり一緒にはなれない?」

寝転がったまま泣く。

あの頃から変わらない現実は、いつになったらあたしを解放してくれるの?

思えば思うほど、胸が苦しくてたまらない。

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