spiral

 残暑。今日は週に一回の洗濯日。

あれからママが振り込んでくれたお金で学校に着ていくシャツを買い、着回して、土曜に洗濯をするようにした。

光熱費の節約のために、だ。

ママが振り込んでくれた金額で、どの程度生活できるのかわからない。

だったら、やれるだけやって余ったら喜べばいい。

「んー、よく乾いてる」

まだ暑いだけあって、あっという間に洗濯物は乾いていた。

洗濯物を手に、ほうっと息を吐く。

ママはまだ、あたしを一緒に連れて行ってくれないのかなって考えてしまう。

聞くに聞けない。

聞けば、それなら最初から連れて行ってるでしょ?とか怒鳴られそうだ。

大きくため息をつきながら洗濯物を取り込んでいると、声がした。

「こんにちは」って。

自分にだなんて思ってなくて、ほっといた。

「マナちゃん」

階下をのぞくと、眼鏡をかけた男の人が頬笑みながら小さく手を振っている。

「こんにちは」

もう一度言われ、頭をちょこんと下げた。

誰だろう、見たことない人だ。

残っていた洗濯物を一気に引きはがすように取り込み、玄関に向かう。

「あ、ちょっと待って」

カンカンと金属音を鳴らし、階段を駆け上がってくる男の人。

「マナちゃんだよね」

鼻先に汗をにじませながら、もう一度確認してくる。

「どなたですか」

一歩下がると、ドアが背中に当たった。

「いい天気だね。お洗濯してたの?」

「あ、まぁ」

曖昧に返す。無駄に笑顔で怖い。

「少しお話したいんだけど、ダメかな」

ゴクンと唾を呑む。

「だから……どなたですか」

焦れる。気持ちが悪い。

黙ってニッコリ笑ってるまま、返事がない。

「あたし、失礼します」

バッとドアを開けて、中に入ろうとしたその瞬間。

「僕は、新しいお父さんです」

という声がして、顔だけ振り向くと、また微笑んでた。

固まってしまう。当たり前だ。

「香代さんの娘さんのマナちゃんだよね。初めまして」

ママからは何の連絡もなかった。

余計なことを言いそうな自分を飲み込んだ。

< 6 / 221 >

この作品をシェア

pagetop