spiral
開きかけたドアが、ゆっくりと開いていく。開かれていく。
「怖がらなくていいよ。マナちゃん」
その声は、いつも聞いてたパパの怒鳴り声とは明らかに違っていた。
自分の周りにはいなかったタイプの人。
笑顔の人。
パパもママも怒ってる顔の時が多かった。
笑ってる時は、お客さんと話してる時とか、パパがパチンコで勝ってきた時。
慣れていない相手に、さらに人見知りの自分。
どんな反応が出来るって言うんだろう。
「また来るよ。今度は、そうだなぁ。うちの商品でも持ってくるかな」
「うちの商品?」
思わず返してしまった。そのあたしの声に、くすっと笑ってから、
「うん。コンビニのオーナーなんだ、僕」
そう答えてくれた。
コンビニと聞いただけで、単純なのか身近に思えて体も振り向いてしまった。
「オーナーさん」
「そう。今度、廃棄のお弁当でも持ってくるよ。廃棄っていっても、早めに下げてるだけだから」
そう話した時、視界に入ったものが気になって、とっさに体が動いてた。
「汗!」
ポケットに入ってたハンカチを差し出す。
目に汗が入りそうになってた。
「目のとこの……汗が、その」
差し出したものの、図々しかったかもと俯く。
「ありがとう」
ハンカチを受け取り、そのまま階段を下りて行った。
「今度洗って返すからね、マナちゃん」
「あ」
また来るキッカケを与えてしまったことを、すこし後悔した。
車に乗っていなくなった、名前も知らない新しいお父さん。
部屋に入って、ママにメールすると、こんな返事がすぐに送信されてきた。
『何があっても関わらないで』
あたしはこのままずっと、ママと離れ離れなんだって知らされてしまった。