spiral
「なんだ、それって」
呆れた声の凌平さんが、髪をかきあげてため息をついた。
「あんだけ散々会いたくなさそうだったのに、顔見た瞬間にそれって?」
「うるせぇな。あんだけ待ったんだから、それくらいのご褒美あったっておかしかないだろ」
「ご褒美って、あのなぁ」
なんでいるの?お兄ちゃん。
そう思ったりはしても、完全に会いたくなかったわけじゃない。
お兄ちゃんの胸元に顔を埋めて、しゃくりあげながら訴える。
「お兄ちゃん、は……、ママの味方、なの?」
そうじゃないことを願いながら、同じ言葉を繰り返す。
「嘘、つかれたくない……け、ど、どっちの味方……か、ひっく、言って」
「マナ」
「ママの味方って言ってもいい。そしたら……あ、たし。諦め、るからっ」
どう答えてほしいのか不確かだ。
お兄ちゃんにいってる言葉がグッチャグチャだって、自分でもわかるよ。
こんな矛盾だらけの質問に答えられるはずがない。
「うぅっ」
泣かないで話そうとすればするほどに、喉の奥がギュッとなって言葉がうまく繋げない。
「お、に……ちゃん」
肩を上下しながら泣くあたしに、容赦ない痛みが後頭部に降ってきた。
「凌平!マナに何すんだ!」
叩いたのは凌平さん。
「諦めたくないから、だから苦しんでるんだろ?言えばいいだろ、ナオトに!」
また怒ってる。
「違っ」
矛盾だって分かってても、いえない。
心が千切れそうになってるけど、それでも言えないんだもん。
何かが、誰かが後ろから腕を引っ張ってるみたいなの。
信じれば、寄りかかろうとすれば、きっと裏切られるよって。
「ナオトに直接聞けよ。今までのこと、全部」
「やだ!いやだぁ!」
お兄ちゃんのシャツをギュッと握り、もっと俯く。
「聞けばいいじゃん。なんで自己完結すんの?家族なんだろ」
凌平さんが言ってることは当たり前なんだよね?きっと。
でもあたしは知らない!そんな常識、知らないんだもん!
「家族になりたいんじゃないのかよ。独りでいいのか?」
その独りという言葉。
それが今のあたしにはスイッチになってた。
あたし自身気づいてなかったことに気づいてた人が、そのスイッチに触れた。