spiral

「さっき奥の部屋から出てきた時点で気づけよ。俺はお前と凌平の話、ほぼ聞いてる。お前とあの女の間に起きたこともな」

そうか、そうだよね。

「なんでそんなに俺のこと信じられない?お前と母親とが過ごした時間と同じ時間がなきゃ、信じてもらえないのか?」

「そんなつもりは」

ないといいかけて、それも飲み込む。

いろんな言葉を飲み込んでばかりだ。

「お前は十分に自分の気持ちを出せるって、今やっとわかった。出会ってから今まで見てきたお前は、きっとまだ俺に距離置いてたってことだろ」

「違っ」

怒ってるお兄ちゃんになんとか許してもらおうと、否定を肯定しようとする。

けどそれこそ、本当は一番してはいけないこと。この場では許されないこと。

それに気づけずに、あたしはとにかく許されたくて縋る。

「いい加減にしろ」

お兄ちゃんがもっと顔を赤くして怒ってる。

あたしは何も言えなくなって、ただ青くなるだけ。

どうすれば許してもらえるの?

お兄ちゃんに触れたくて、でも怖くて。それは心も同じで。

「話せよ、二人で」

凌平さんが部屋を出て行こうとする。

「あ」

また、だ。なんで?

「ん?」

凌平さんが足を向けた方向に、数歩付いていってしまう。

「……なぁに?マナ」

今度は追いついてしまえる距離だったみたい。

つまんだシャツの裾。

「どうかした?」

長身の身を屈め、視線を合わせてくれる。

「別にあたしは」

本当に何してんのかな。凌平さんに何か言いたいことあったっけ。

「そ?じゃあ、ナオトと話しときなよ。俺、ちょっと抜けるから」

裾をつかんでいた手をソッと離し、手をヒラヒラ振っていなくなった。

今まで凌平さんの服の裾をつかんでいた手を見つめる。

「何したかったんだろう」

わからないや、全然。さっきも今も、なんで後を追ったのか。

「……マナ」

お兄ちゃんの声で自分が呆然としてたことに気づくまで、ずっとその場に立ってた。

< 75 / 221 >

この作品をシェア

pagetop