spiral
「さっき奥の部屋から出てきた時点で気づけよ。俺はお前と凌平の話、ほぼ聞いてる。お前とあの女の間に起きたこともな」
そうか、そうだよね。
「なんでそんなに俺のこと信じられない?お前と母親とが過ごした時間と同じ時間がなきゃ、信じてもらえないのか?」
「そんなつもりは」
ないといいかけて、それも飲み込む。
いろんな言葉を飲み込んでばかりだ。
「お前は十分に自分の気持ちを出せるって、今やっとわかった。出会ってから今まで見てきたお前は、きっとまだ俺に距離置いてたってことだろ」
「違っ」
怒ってるお兄ちゃんになんとか許してもらおうと、否定を肯定しようとする。
けどそれこそ、本当は一番してはいけないこと。この場では許されないこと。
それに気づけずに、あたしはとにかく許されたくて縋る。
「いい加減にしろ」
お兄ちゃんがもっと顔を赤くして怒ってる。
あたしは何も言えなくなって、ただ青くなるだけ。
どうすれば許してもらえるの?
お兄ちゃんに触れたくて、でも怖くて。それは心も同じで。
「話せよ、二人で」
凌平さんが部屋を出て行こうとする。
「あ」
また、だ。なんで?
「ん?」
凌平さんが足を向けた方向に、数歩付いていってしまう。
「……なぁに?マナ」
今度は追いついてしまえる距離だったみたい。
つまんだシャツの裾。
「どうかした?」
長身の身を屈め、視線を合わせてくれる。
「別にあたしは」
本当に何してんのかな。凌平さんに何か言いたいことあったっけ。
「そ?じゃあ、ナオトと話しときなよ。俺、ちょっと抜けるから」
裾をつかんでいた手をソッと離し、手をヒラヒラ振っていなくなった。
今まで凌平さんの服の裾をつかんでいた手を見つめる。
「何したかったんだろう」
わからないや、全然。さっきも今も、なんで後を追ったのか。
「……マナ」
お兄ちゃんの声で自分が呆然としてたことに気づくまで、ずっとその場に立ってた。