spiral

「あ、うん。はい」

気の抜けた返事をして、「ごめんなさい」とか、また謝ってるあたし。

そんなあたしをお兄ちゃんは悲しそうに見てて、あたしはまた困惑する。

さっきまでは怒ってて、今度は悲しそうになってて。

「もういい」

諦めの言葉を吐かれ、心底困り果てて、床に足がくっついたようになった。

立ってればいいのか、座ればいいのか。何を言えばいいのか。

沈黙がまた続く。

(お兄ちゃんと話せって言ったけど、無理だよ。凌平さん)

心の中で文句を言う。勝手なこといっていなくなった人に。

お兄ちゃんが奥の部屋に行って、タオルを手にして戻ってきた。

キッチンに行って、タオルを濡らしてる。

動く先々を目で追う。

「マナ」

ギュッと絞ったタオルを放ってきた。

「タオル?」

「それがタオルじゃなかったら、一体何なんだよ」

今さっきまでの表情と変わって、明るい笑顔になった。

「それで顔拭け。涙でグチャグチャのままだぞ」

タオルを手にボーッとしてるあたし。

「顔も自分で拭けないとか言うなよな」

ゆっくりと近づいて、タオルをあたしの手から取って。

「ほら、目をつぶれよ」

優しく顔を拭いてくれる。

「う……」

こんなことされたことってない。

きっと赤ちゃんのころにはあったのかもとは思う。

「逃げるなって」

ギュッと顔をしかめて、半歩下がる。

「だ、だって」

恥ずかしい。ものすごく照れくさいんだもん。

「ったく、いろんな意味で手がかかる妹だよな」

その言葉にソッと目を開けば、またどこか悲しげな目に戻ってた。

「マナ、俺さ」

拭きながら話しかけてくる。

「う、うん」

なんだかいつもの空気じゃないお兄ちゃん。

ものすごく緊張してきた。

「あのさ、やっぱ順番守らなきゃダメだよな。俺のが先だったんだ、きっと」

また首をかしげてしまう言葉を口にした。

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