spiral
体がブルッと震える。一瞬で思い出せる記憶。
「……すぐじゃなくてもいいって」
苦笑いをしてから、宙をみながらお兄ちゃんがため息交じりに呟いた。
「自己完結すんな」
まるで自分に言い聞かせてるようにも聞こえた。
「勝手にこうなんじゃないか、ああなんじゃないかって。それは本人の意思って、無視してるだけだろ」
確かにそうなんだけど、本人に聞くって勇気がいるんだよ?
「俺と話してみて、どう思った?」
「え」
「俺に聞けただろ、色々。まぁ、本当に聞きたいことの半分も聞けてないかもだけどな」
そういってから、重ねていた手を外して。
「お兄……」
言葉を失った。
ふわりと包み込むように、お兄ちゃんがあたしを抱きしめていた。
「断言してやる。お前は、独りにはならない」
独りという言葉。それは苦しい言葉。
「お前に聞く勇気がないってんなら、俺が分けてやる」
もっと強く抱きしめてくれる。
ポロポロ、拭いてきれいにしてくれた頬に、涙が伝う。
「だからお前から独りになろうとするのは、もうやめろ」
その言葉に、お兄ちゃんの背中に腕を回し抱きしめ返す。
「お兄ちゃん……。本当に?ならない?……ひと、り」
子供のようにたどたどしく聞き返す。
「させねぇよ」
短くもハッキリした、強い言葉。
「……うん」
どうしてだろう。伊東さんよりも早く、お兄ちゃんと呼べたこと。
不思議だよ。お兄ちゃんを疑って悲しんでたのに、嘘かも知れない言葉を、どうしても信じたくなった。
「護る。お前のこと、ずっと」
「うん」
体だけじゃなく、心も丸ごと包まれている錯覚。
それはとても気持ちのいい錯覚。
「話、終わった?」
いつからいたんだろう。物音もさせず、凌平さんが入り口に立ってた。
抱き合ってたお兄ちゃんと、パッと離れる。
兄妹とはいえ、恥ずかしい姿だったよね。きっと。