spiral

床にゴロンと寝転がる。

何の気なしにテレビをつけると、楽しげな笑いが画面中から溢れてた。

「なんも楽しく、なんか……ないじゃない」

静かな部屋。賑やかなテレビ。

温度差に泣きそうになるのに、やっぱり泣けない。

新しいお父さんに関わるな=自分の生活に関わるなっていうことだよな。

そう確認したくても、確かめてもっと落ち込むのは目に見えている。

そんな自爆行為をするのは、バカみたい。

ゆっくりと慣れてきたはずの、一人暮らし。

自分が望んでそうなったわけじゃない。

それだけに、寂しさは募る。

考えないようにしてたのに、寂しいと気づいてしまう。気づかされる。

(諦めればいいだけ)

何度も言い聞かせる。けど、どこかでまだ待っているあたしがいる。

大好きなタオルを片手にママの帰りを待ってた、子供の頃のあたしみたいに。

テレビを消して、目を閉じた。

残暑の生ぬるい風が、頬を撫でた。

何も考えないために、眠るしかなかった。

 あれから、何度もやってくる新しいお父さんという人。

名前は伊東さん。

「少し涼しくなってきたね」

制服姿で歩いていると、声をかけられた。

「こんにちは」

軽く頭を下げるだけで、そのまま立ち去ろうとする。

だって、ママには関わるなって言われてるもの。

「あぁ、待って待って。ほら、新作のデザート出たんだ。食べないかな」

ガサガサとレジ袋を鳴らし、小走りしてくる。

「ほら、持って帰って食べなよ。マナちゃん、痩せすぎだよ」

実際、体重は激減といっていいほど減っている。

体力がなくなってきた。

「いらないです。ちゃんと食べてます」

背中を向けたままそう返す。

「待ちなさい、マナちゃん」

いつもの口調とは違う声色になった。

「え」

思わず止まって振り返ると、怒ってるみたいだった。

パパに怒鳴られた幼い記憶が、一瞬よみがえった。
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