spiral
「その先があるのかと思っちゃった」
クスクス笑って、レジ袋をテーブルに置く。
「なんか飲むものくれよ」
赤くなって立ち上がり、冷蔵庫に向かったお兄ちゃん。
空いたあたしの隣に、おもむろに凌平さんが腰かけた。
「え、な……なんですか」
鼻に入ってくる柑橘系の香り。お兄ちゃんとは違う、男の人。
「はい」
そういって、抱きつく。
「え?えぇ?」
パクパクと金魚のように口を動かす。
カチンと固まってると、「やだなぁ」と囁く声。
「ナオトみたいにさ、ぎゅって抱きしめ返してくんないの?」
「凌平!」
冷蔵庫から出したペットボトルを開けもせず、床に放ってお兄ちゃんが飛んでくる。
「マナに触るな!」
間に腕を割り込ませ、体を引き剥がす。
「いいじゃん、別にさ」
「ダメに決まってるだろ」
完全に怒ってるお兄ちゃんを横目に見つつ、凌平さんが呟く。
「シスコン」
って。
「シスコンで結構だ」
まだ怒ってるお兄ちゃん。あたしの手をギュッとつかんで、凌平さんを睨みつけた。
それから数日間、凌平さんの家で過ごす。
翌日には一旦お兄ちゃんだけ戻って、伊東さんに事情を話に行った。
ただし、ママがしたことには触れず、あたしにショックなことがあったとだけ。
それで友達の家にいるとか話したって言ってた。
「それで納得するもんか?お前のオヤジさん」
凌平さんが手を動かしながら聞く。
「なにか分かったのか、妙に納得した顔で分かったとしか言わなくてさ」
「ふーん」
「あ、歪んじゃった。……あぁ」
「あー、ホントだ。貸してごらん」
凌平さんの長い指先が形を整えていく。
「ほら、こっちの方がいいよ」
凌平さんが笑って手渡してくれたもの。
あたしたちは三人で指輪を作っていた。
歪んだ螺旋状の指輪は、凌平さんの手によって平坦なよくある指輪へと変わっていた。
凌平さんの本職。アクセサリー職人。それと販売。
わずかな時間を一緒に過ごした思い出って、何か作ろうという話になった。