spiral

 それからさらに三日。

学校も休み続け、仕事も休み続けた。

行くのは怖かった。ママがどこかで張ってたらとも思えたし。

お兄ちゃんとも話し、伊東さんが送り迎えをしてくれることで話が決まった。

伊東さんを信用できるかというと、正直出来ない。

ママ寄りだと今でも思ってる。

お兄ちゃんがなるべくは一緒にと言ってくれた。

心さんもお兄ちゃんと一緒がいいという。

久しぶりに会った心さんは、すこし拗ねていた。

「ナオトったら、彼女より妹ってどうなの?」

「ごめんなさい」

謝るあたしに、「ナオトがイケナイんだから、謝らないで」と屈託ない笑顔を見せてくれた。

凌平さんの家を出る日、凌平さんがちょっとおいでと指先で呼ぶ。

心さんと話しているお兄ちゃんを横目に、すこしだけ近づいた。

「あのさ、指輪出来たら渡したいから」

「あ、はい」

それだけのことを、なんでコソコソ話してるのかって思った。

「でね、連絡取れるようにしたいんだ」

という。

「お兄ちゃんに言ってもらえれば会いにきます」

そう返したあたしに「やだ」という。

子供みたいな返事に、顔が緩んだ。

「でもあたし、携帯は」

服とかと一緒に捨てられてた、あたしの携帯。

後になって、ゴミステーションに袋に入ったままあったという。

でも伊東さん名義のそれは、使い続けるのに少し抵抗があった。

言葉を濁していると、手のひらに乗せられたひとつの携帯。

「これ、俺のなんだ」

「え?」

「内緒で持っててよ。マナの携帯、あとで見つかったとはいえ、オヤジさん名義だし、チェックされてたら嫌だし」

鈍い金色した派手な携帯。

「俺の仕事用のやつなんだ。仕事用の電話は、プライベート用のに来るように連絡してあるし。……ね?持ってて」

迷う。そんな勝手して、怒られないかとか色々。

正直なとこ、あたしが何も言ってないのに、抵抗があることを分かっててくれたのがうれしかった。

「マナも十分に大人だと思うよ。自分のことは自分で決められるよ」

「そう……なんですか?」

あたしが自分のことわかってないのに、あたしのこと知ってる風の口調。

「……じゃ、じゃあ、とりあえず預かっておきます」

曖昧に返すと「それでもいいよ、持ってて」とあたしの耳に小さくキスを落とした。

「きゃっ」

思わず上げた声。

「凌平?マナ、今何かされたのか」

そういいあたしに近づくお兄ちゃんに、キスされたなんて言えなかった。

言えば唇の感触を思い出しそうだったんだもの。

< 83 / 221 >

この作品をシェア

pagetop