spiral
「う、ううん!」
ブンブン手を振って、大げさに違うと知らせる。
「本当か?」
あからさまに不機嫌そうな顔つきをして、あたしを凌平さんから引き離す。
「それじゃ、またね」
そう手を振って、階段の上から見送ってくれる凌平さん。
三人で階段を下りる。
「マナちゃん」
下には伊東さんが待っていた。
来るとわかっていたのに、それでも心はざわつく。
「おかえり」
「た、ただいま」
ゆっくりと降りて、車のそばにまで行くと、
「心配したんだよ」
そういって、頭をポンポンとしてくれる。
こうしてくれる姿は、前とちっとも変わらない。変わったとすれば、あたしの心だけ。
「何があったか詳しくは聞かないけど、親を心配させないでほしいな」
素直に聞けない言葉。俯く心。
「はい。……ごめんなさい」
お兄ちゃんが助手席、心さんとあたしは後部座席に座った。
窓から外を見れば、階段の柵にもたれかかったまま凌平さんがまだ見送ってた。
視線に気づかれ、手を小さく振ってくれる。それに返すあたし。
動き出す車。天気はいいのに、心は晴れない。
伊東さんはママから何か聞いたんだろうか。
聞きもしないでなんでも自己完結するなって、お兄ちゃんはそういう。
確かにそうなんだけど、ママが言ってた言葉が頭から離れないまま。
(伊東さんは味方?敵?)
運転する伊東さんを斜め後ろからみるけど、見てるだけで分かるならどうにでもなる。
人の心が簡単にわかればいいのにと、何度も思ってた。
ママがあたしを好きになってくれることはないのかな。
産んだことも後悔して、アキの子守りとして生かしておいて。
そうして今、あたしはママにとって邪魔だという。
ママに愛されるためだけに生きてきたわけじゃない。……けど、寂しすぎる。
(好きな人と通じ合えないって、こんなにも辛いんだな)
窓の外、流れてどんどん変わっていく景色。
胸の奥にシコリを残したまま、あたしは目を閉じた。
学校は欠席扱いになったものの、仕事の方はそうもいかず。
早く自分の力でと思う気持ちと、現実。その狭間で、自分を見つめるしかできなかった。