spiral
第三章~heavy~
愛されるって、望んでたはずなのにツライ。
「ほら、おいで。マナちゃん」
「あ、はぁい」
伊東さんはあれから、以前には見せなかった部分を見せるようになった。
溺愛という重たい愛を与えてくれる毎日。
それは最初は戸惑いから始まった。
ママが伊東さんとつながってると思っていたから余計に、だ。
あの時のあたしに何があったのか、伊東さんは一切聞かない。
お兄ちゃんは伊東さんに、これだけは話してくれた。
伊東さんとお兄ちゃんの中にある、悲しい思い出。
それをあたしにちゃんと話をしたということ。それによって、近づけると思ったと話したって言ってた。
それを聞いた伊東さんはお兄ちゃんに、こう返したんだって。
「本当は俺がその役をするべきだったのに、辛い思いさせたな?」
お兄ちゃんは二人の死の後、何度も伊東さんとぶつかってきて。
お互いがお互いを憎みあいかけた時期も乗り越えて、そうしてここまできた。
だけどそんな労いと感謝にもにた言葉をもらったことはなかったという。
「お前が俺たちの前に現れて、それからいろんな時間が動き出してる」
オーバーだなと思えるような、そんな感謝の言葉をあたしにくれた。
「あたし、なにもしてないよ」
「してるしてないの話じゃないんだって、マナ」
困惑するほどの感謝。
「出会えた運命に感謝してんだ、俺」
ほら、またこんなにもオーバーなこと言ってる。
「困る、そういうの」
まっすぐ見られるのにもまだ慣れない。
「いいから。俺が勝手に感謝してんだから」
そうして繰り返し、過ごす毎日。
伊東さんは学校の送り迎えや、買い物。どこに行くにでも付いてくる。
ママのことを気にしながら、それでも断れないあたし。
実際そうやって一緒に出かけても、ママがどこからか出てくることはなかった。
あたしのこと伊東さんから聞いてるんだと思ってた。ママがそう言ってたから。
「今度この近くに新しいケーキ屋さんが出来るんだって」
「そうなんですか?」
「うちの商品でもプチスイーツ扱ってるからね。きっとそっちにお客さん流れちゃうんだろうな」
言われてなるほどと思いながら、助手席で外の景色を見ていた。
「今日は一緒に買い物に行けて嬉しいなぁ」
あたしの買い物なのに、あたしより嬉しそうだ。
「でも女の子がたくさん行くような場所ですよ?」
わざと選んだその場所。でも一緒に入るという。
「どんな物が好きなのか、小さなものでも知っておきたいんだよ。僕は父親だからね」
ポケットに入れてあるモノをギュッと握る。
「僕の可愛い娘だもんな」
そう呟き、なにか分からない鼻歌を歌いだす。とにかくご機嫌なことはわかる。