spiral
「あのね、マナちゃん」
あたしの至近距離にまで近づき、肩にポンと手を置く。
「親はね、子供の心配をするもんなんだから。そういうこと言わないんだよ?いいかい」
意味のわからないことを言われた。
その言葉の意味を考えるけど、心配なんてされたことがないから答えが出ない。
「でも、あたしは親子じゃ」
そういいかけて、ママと自分が遠い関係になってることを再認識しそうになったのが怖くなった。
胸が痛む。
すこし俯いたあたしの頭に、ポンポンと手のひらが置かれる。
「僕にとっては、子供なんだよ。だから甘やかせさせてくれないかな」
それから、左右に動かし、撫でられる。
パパやママに撫でてもらった記憶はほとんどない。
くすぐったいような、切ないような気持ちになった。
「とにかく、これを食べてね。あんかけやきそばなんだ。好きだといいんだけど」
テレビで見るだけで食べたことがない。
そっと顔を上げて、「あ」だけ言えたのに、その先の「りがとう」が出てこなかった。
「うん、大丈夫だよ。ちゃんと聞こえたから」
これっぽっちのことで察してくれたのか、その言葉を聞いただけで安心した。
「またね、マナちゃん」
また小走りで道を戻っていき、いなくなった。
「あんかけやきそば」
味のないパンじゃなく、いろんな味や匂いのする食べ物。
「楽しみだな」
断っても断っても持ってくるお弁当。
もったいないからと言い訳つけて、何度か食べた。
そのお弁当は、今の自分の生命線でもある。
だけど、関わってはいけない。
自分の中で葛藤を繰り返してても、やっぱり美味しいものが食べられるのは幸せだった。