spiral

一万円を受け取り、伊東さんが車を出しに行った隙に会計を済ます。

「これ、サービスね」

店員がくれたのは、すごく小さなきんちゃく袋。

「アクセサリー入れるのに使ってね」

そう言われてすぐ、ポケットからあの指輪を取り出す。

「あぁ、そうそう。こうやって……ほら、ね」

あたしの指輪を袋におさめてくれる。

「傷つかなくていいよ、これ」

手のひらの載せられた小さなきんちゃく袋を手のひらで包み込む。

そのまま胸に拳を抱くと、「そんなに喜んでもらえてうれしい」と笑う店員さん。

「ありがとう」とお礼をいい、車に向かった。

「そんなに楽しかったの?僕との買い物」

その言葉に横を向くと「いい笑顔だったから」と伊東さんが言う。

「そ、そんなこと」

しどろもどろになりつつ、熱くなった顔を手のひらで押さえた。

「可愛いよ。そうやって笑うマナちゃんは、僕の自慢の娘だ」

あたしよりも嬉しそうに笑い、車はゆっくりと動き出した。

そっとポケットを手のひらで押さえる。確かに指輪がそこにある。

(好きって言われたからなのかな)

会えなくなってから、思い出す時間が増えた。

自分が凌平さんに対して抱いてる思いが、どんな思いなのかわからない。

わからないけど、でも……気になる。それだけはわかった。

つけられない指輪。自由にならない時間。

窮屈さをすこしずつ感じれば感じるだけ、生まれてくる焦れったさ。

たくさん会えば、こういう気持ちって薄れるのかななんて思うものの。

(こういう感情って、慣れてないからなぁ)

小さくため息をつき、窓の外を眺める。

(あ、いた)

一瞬、見えた。

(凌平さん、笑ってた)

露店で働いてる姿が見えた。

ほんの一瞬みえただけなのに、胸の奥はチリチリと痛む。

(声聞きたいな)

バッグの中には、凌平さんから借りたままの携帯。

何かのために自分から動くことがなかったあたし。

(笑うかな、メールなんかしたら)

伊東さんが話しかける声に、曖昧に返しながらも頭の中は、最初になんて打とうということばかりだった。
< 90 / 221 >

この作品をシェア

pagetop