spiral

 原稿用紙を前に、何も書けない浮かばない。

浮かばない、というのは違うかな。

どう書けばいいのかが浮かばない、だ。

絆と聞いて、真っ先に浮かんだのはやっぱりママだった。あたしとママにはないのかなって。

それと次が、あの人。

「順番逆だよね」

テーブルに突っ伏して独り事を呟けば、湯気が上がったマグが置かれた。

「なんの順番が逆なの?」

心さんがレモンティーを淹れてくれた。

「あ、すいません」

「いいのよ、これくらい。今日はナオト留守だし、退屈なんだもん」

月に何度か実家に帰る日だ。帰ってきたら聞いてみようかな、ママのこと。

「まだ悩んでるの?こんなのを」

原稿用紙を指先でつまんで、屈託なく笑う心さん。

「心さんはもう書いたんですか」

「ん?うん、こういうのはインスピレーションっていうか、浮かんだから書いた」

「浮かんだんだ……、いいなぁ」

原稿用紙を返してもらい、ため息をついた。

「難しいことないのに。選ばれたくって気合い入れてるなら、話は別だけど」

いいながら、あたしの横にすり寄ってきて。

「発表したいの?マナ」

真っ白い原稿用紙を一緒に覗きこむ。

甘い香りがする。女の子の香りだ。ちょっとボーッとしちゃう。同じ女の子なのにな。

「そんなつもりはないけど、その……浮かぶのがママのことしかなくて」

言いよどむあたしに、心さんはアッサリと言い切る。

「書けば?」

って、短すぎる言葉で。

「えぇ?だ、だって、ママのことっていったら、きっと……ママへの望みとかになっちゃうし。その、それって作文じゃないようで」

言い訳のように言葉を返すと、そんなあたしの言葉にも、

「いいじゃない、別に」

また短めの言葉を返す。

「いいじゃないって」

呆気にとられてしまう。

「だから、作文に書いたからって、マナのママがその望みを叶えてくれるなんて決まってないんだし。そもそも代表に選ばれたらっていうのが頭にあるから、余計に悩んでる。……違う?」

外れてはいない。万が一を想定してしまうもの。

「高望みよねぇ?結構」

クスクスと笑う心さん。

高望みという言葉に、凌平さんを思い出した。

指輪を作っていた時に同じようなこと言われたっけ、なんて。

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