spiral
「えっと、その」
顔が少しだけ振り向き、指で膝を指される。
「ご、ごめんなさい!」
おそるおそる、その男性の膝に乗る。
「いらっしゃいませ」
顔を上げることができない。相手の顔を見るのが怖い。
腰に回された腕。引き寄せられた体に、本当にそういう場所なんだと嫌でも認識する。
「名前は?」
囁く声に、声をも震わせながら「マナ」とだけ返す。
「可愛い名前だね」
恥ずかしい格好だ、これ。太ももの上に乗っかって、横向きでの接客。
お客さんはずっとあたしの顔をみているっていうことだ。
「初めて?こういう仕事」
コクンと頷くと、「俺って、何番目のお客さん?」と続けた。
それに「最初」と返すと、「よかった」と囁く声。
そして、囁きのまま耳に口づけた。
「ひゃっ」
思わず出してしまった声。上げてしまった顔。
「え」
「シーッ」
驚きの声と秘密を知らせる声は同時。
(凌平さん?)
気づけなかった、声だけで。緊張の度合いが半端なかったから、気が回らなくて。
「このまま接客して。連れ出すから」
コクコクと頷くものの、ママのことが気にかかる。
「でもあたし、ママに連れてこられて」
「ん?母親に?あれ、やっぱりそうだったの?車に乗っちゃってたから、顔あまりみえてなかったしさ。確かめようなくて」
と、小さく笑いながら話してくれる。
「……はい。それでなんだか売り上げがどうとかって話してたから、勝手にいなくなったら」
ママがまたあたしのとこに来るんじゃないかってドキドキした。
あたしの顔を黙って見つめてる凌平さん。
真面目な顔つきで、あたしを黙ってみてるだけ。
いつもの自分の顔じゃないだけに、じーっと見られてると恥ずかしい。
「マナって、ほんとにバカ」
耳を近づけ、囁く。息が耳をくすぐった。
「やっ」
身をよじると、クスクス笑う声がした。
「お客さん、その子、今日入った」
「うん、そうだってね。ね、店長。この子連れ出していいんだろ?」
店長の顔が明るくなった。
「いい、そのかわり、前払い」
「わかってるよ。いくらだっけ」
店長と話をすませ、いくら渡したのか「ありがとうございます」と店長がいった。
「お客さん、怒らせるな。わかったな」
注意事項なのかな、それだけいって店を出された。
お客と店員のふりをして、ゆっくりと歩き出す。
「あっちに車あるから」
「はい」
どうかバレませんようにと願いながら、砂利が敷かれた駐車場を歩く。