光の射す方へ
30分くらい経過したとき、

『ピンポーン』

兄だ!!

玄関を開けて私は涙も止まってしまう程驚いた。


この寒いのにヨレヨレのTシャツ1枚、ドロドロのジーパン、ボサボサの髪に伸びっぱなしのヒゲ…

威厳のある、父親がわりの兄の面影は全くなかった。


『お兄ちゃん!』


『ゴメンなアヤ!ゴメン…』

その場に兄は倒れ込んだ。
兄は軟禁場所から逃げ出し、今までひたすら歩いたという。より遠く、遠く… それに止まるとこの寒さだ。お金は200円程で私への電話代と飲み物で使い果たした。


あったかいお茶を飲み何とか兄は言った…

『お風呂に入りたい…』
私は兄の大好きな焼きそばを作り、風呂から上がるのを待った。



昔、裕福ではなかった我が家の焼きそばは豚肉のかわりに、うすく切ったウインナーだった。これは子どもながらに考えた私の節約術だ。

私が家を出てからの事、実家に帰った時に兄のごはんを作ろうとした私。
『お兄ちゃん!ごはん焼きそばでいい?』

『おお!アヤの焼きそばはこの世で一番うまいからな!』

兄は帰る度、食事を聞くと決まってそう言った。しかし、その日はこう付け加えた。
『出来ればウインナーじゃなくて、豚肉がいいな…もう貧乏じゃないんだし…』
兄はいつからかそんな言葉を付け加えるようになっていた。私は大笑いして豚肉を入れた。それからというもの、焼きそばを作ると言うと兄は、

『ウインナー?豚肉?』と聞いてくる。私はなんだかそれがおもしろくて好きだった。


そんな事を思い出していたら兄は風呂から上がった。


兄は私の作った焼きそばを見て、涙が頬をつたった。その涙を拭おうともせず、声も出さずに、焼きそばを完食した。
豚肉入りの焼きそばを。
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