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 二時間というレッスン時間は、苦痛と葛藤だ。

 ずっと、演奏していると指が痛くてヒリヒリしてくるのも嫌だけど……もっと嫌なのは上手に弾けない自分だけど。


 このオッサn……違うわ、セルマン先生は、私のレッスンの度にわざわざドイツから来日しているのだ。


 私の為に、なんでそんな無駄な時間を使うのかしらね?


 ああ、ストレスがたまっちゃった。後で柏原をこき使ってイライラを発散させないとダメね。




────パチパチパチ


 拍手がしたほうに振り向くと、入り口で柏原が満足そうな顔をして手を叩いてくれていた。

 やっと二時間経った。 

 優雅で華やかな課題曲の譜面を閉じて、レッスンは終了だ。





「柏原! イケメンの名前わかったの?」


「お嬢様……その話は、セルマン先生と会食された後にいたしましょう。どうぞコチラへ、夕食の準備が出来ています」


 大広間の木扉が開くと、良い香りがしてくる。

 セルマン先生が、オーバーに空気を吸い込むジェスチャーの後に早口のドイツ語で柏原にしきりに、何かを話かけていた。

 私には内容がわからないけど……先生は、柏原の料理がお気に入りで毎回レッスンの後は食事をしていかれた。

 ヴァイオリンの才能がない私との会話より、ドイツ語が堪能な柏原の方が先生は生き生きと嬉しそうな顔をする。

 
 ひょっとしたら、この執事に会う為だけに私にヴァイオリンを教えにくるのかしら?




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