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「柏原……感謝してるわ、いつも私の為に動いてくれて。貴方みたいな有能な執事がいて私は幸せよ」
攻撃が駄目なら、色仕掛けよ!
それが柏原に有効かどうかがわからないけど、上目使いで出来るだけ甘い声を出す。
もう少し胸が大きければ、更に効き目が高いはずだけど十分よね?
ほら、クラクラしちゃうでしょ? 柏原。
柏原は無表情のまま黒髪の隙間から、感情の籠らない目線で私を見ると手を下ろし書類をくれた。
「まったく、困った人だな。
お嬢様、夕食の片付けをして私は下がりますが、よろしいでしょうか?」
「うん。また明日ね」
大切に封筒を握りしめたまま、柏原にヒラヒラと手を振る。
彼はこの家に住み込みで働いているわけではない。
普通は執事とは住み込みが基本だけど、柏原は近くに別の住まいがある。
お父様から言い出した事らしいけど、柏原がそうして欲しいとお願いしたと私は考えてるわ。
今までの使用人は皆住み込みで働いていたし、お父様がそんな事を言うなんて想像つかない。
だから、夜はこの広い家に私は独りになる。柏原がどこに住んでいるのかは知らない。それも『お嬢様におつかえするに必要のない情報です』という項目に当てはまるらしい。
ただ、携帯番号を教えられていて何かあるとすぐに駆け付けてくれるから、ま、どうでもいいのよね。柏原がどこで何してようと。