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「茉莉果様、まだその小説を読まれていらっしゃるのですか? もうずいぶん前に購入された気がいたしますが」
「私は、文章を味わいながらゆっくり読むのが好きなのよ……」
「その本はもう廃盤になったようですよ? 『内容が下らない』と出版した会社の編集長は、かなり責められたようです」
柏原は、クスクスと肩を揺らして笑う。
「そんな事どうでもいいの。小説にはこう書いてあるの恋に始まりがあるなら
終わりも必ずある。ね、柏原。私とナツの恋はあまりにも短かすぎたわね?」
柏原は答えない。
無表情で立ち尽くし、すぐにニコリと微笑む。
「お嬢様、食事の準備が整いました」
「……そう、ありがとう」
柏原は、雇っている使用人だ。
お金を払って働いてもらっている。
だから、どんな時も傍にいてくれる。
その優しい笑顔も……
私には、親が多額の寄付をする有力者だから学園でも特別扱いされている。
両親が有名な音楽家という肩書きで集まってくる人がいる。
柏原もそんな中の一人だ。