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────コツコツコツコツ。一枚板の立派な木の床。私と執事の足音だけしか聞こえない、しーんと静まった美術館。
「綺麗ね……柏原」
私は美術館にくる時は、一般客がいない時間に入れてもらうようにしている。
協賛者のおかげで成せる技よ。私は絵画は独占して鑑賞したい派なのよ。
でも柏原は、私の付属品みたいなものだから一緒にみることを許してあげてるけどね。
「さようでございますね。茉莉果様」
それに……実は、柏原が美術館を大好きな事を私は知っている。
食い入るように、絵画を見つめている執事の横顔。そんなに熱い視線を送る柏原なんて珍しい。
氷のように冷たい視線は、よく見るけれどね。
「ルネサンスの華やかさがいいのよね」
華やかなものを見ると、気持ちまでが華やかになる。
目の前に綺麗に描き出された貴族の婦人のように……
薔薇色の笑みを浮かべ 、きっとこの人は、富みと名誉を手にしていたに違いない。
「ルネサンスが華やだという解釈は賛同いたしかねます」
「なぜ?」
問いただすように柏原の横顔を見つめた。柏原が意見してくる事はあまり珍しくないけれどね。
「一見、華やかそうに見えて、この時代は戦乱も絶えず市民の間では伝染性の病が大量に発生したり、一般的には絵画や音楽を楽しまれていたのは、ごく一部の貴族のみ」
柏原は冷酷な笑みを浮かべる。
「この描かれた女性の家の外では、戦で親を失った孤児や、病に苦しむ人々が腐る程いたのでしょう」