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『お嬢様……何か一つでよろしいと思います。"家事"というものを学ばれてみてはいかがでしょうか?』
柏原は、よく小言を口にしていた。私は、それを軽く受け流して
結局、何も学んではいない。
料理の手伝いは、楽しいから、ちょっとやったけど、それはあくまで"用意された"事をやったなのかもしれない。
柏原が、大のサッカーファンだって知らなかったわ……
私を置いて、突然サッカー観戦に行くなんて予想できなかったわ……
陽子さんが、クリームシチューを運んできてくれる。
朝から何も食べていない私の胃袋は、それをすごく欲している。
嫌いなブロッコリーが浮いているクリームシチュー。眉をしかめてみても、空腹には勝てない。
「お嬢様、お召し上がりください」
「ありがと……いただくわ」
スプーンでブロッコリーを隅によせると、私はそれを流し込むように食べた。
窓の外は、すっかり日が暮れていた。
「陽子さん、柏原はいつブラジルから帰ってくるの?」
シチューを味わいながらも、やっぱり気になるのは執事のこと。
大きな大会だとしても一週間くらいで帰ってくるかしら?
「はい? お嬢様、いつ私が柏原さんがブラジルだと言いました?」
「えっ……だって『ベアトリーチェ』がなんとかって言ってたじゃない?」
陽子さんは少し肩をすくめた。
今、絶対私の事バカにしたでしょ?
「柏原さんは、多分お嬢様がご理解されないと思って……そんな言葉を使ったのかもしれませんね? 『ベアトリーチェ』とはルネサンスの先駆者……ダン……」
「ちょっと待って! それくらい、私にだってわかるわよ」
本当は全然知らないけど……この女からその意味を知るのは、なんとなく癪だ。