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『フィレンツェにはよく来るんだが、観光客以外の日本人に会うのは珍しい』


お父様は話続けた。
お母様は入院患者とその家族の前でただピアノを弾いていた。





柏原は、少しずつお父様に自分の両親の死を打ち明けた。



身寄りがないことも……
この先どうしたらいいのかわからずにいたことも……



そのピアノの音色に負けないくらいの、美しい彼をお父様は放ってはおけなかった。



『君は強く賢い。今が辛くても、きっと這い上がる力がある』


『そんなのわからないだろ……』


『この国を離れてみないか?』


『はぁ?』


『よかったら、日本で暮らしてみないか? そうすれば身元保証人になれる。日本が肌にあわなければこの地に戻ってくればいい。ちょうど私達にも一人娘がいるんだ。今頃日本で寂しい思いをしているだろう。君みたいなのが傍にいてくれると助かるんだが』







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