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「それは……」
そうだ、忘れていた。
美味しいジャスミンを味わいに来た訳ではなかった。
「生憎、私はこの部屋に女をあげて“何もせずに”帰したことは一度もない」
背筋がゾクリとした。
「そういう男です」
「……違うわ、そう! 『ベアトリーチェ』の意味を聞きにきただけなのよ!」
「ああ」と頷き柏原は、またクスクスと笑った。
その笑みは、整った顔を歪ませる。
「失礼、『ベアトリーチェ』とは、ルネサンスの先駆者であり天才と称された詩人ダンテの最愛の女性です。彼自身が生み出した最高傑作『神曲』の中では『永遠の淑女』として崇められた女性です」
んー……
ん?
ちょっと難しい話ね?
「ダンテは幼くして、ベアトリーチェに恋をした。だけど、想いが強すぎて苦しみ他の女へ偽の恋文を出してしまったのです」
「ふーん他の女? なんでそんな面倒くさい事をしたのかしらね」
「それを知ったベアトリーチェは憤慨。二人は口も利かなくなり、ベアトリーチェは違う男性と結婚。その男の子を産み幸せになる」
「あら、ハッピーエンド?」
「しかし、彼女は若くして天に召されております」
「うわっ」